第11話「バカ者ども」
決して油断はしていないつもりだった。
だけど結局、拉致されてしまったわけだから、油断だったのだろう。
そして今、黒子は後手に縛られ、足も束ねられた状態で、拘束されている。
さらにその手と足は、ロープで繋がれているようだ。
それに気付かず、立ち上がろうとした黒子は、先程盛大に転倒した。
黒子が監禁されている部屋は、かなり特殊な場所だった。
無機質なコンクリートの床と壁、きっと元々はかなり広いようだ。
だが今はたくさんのコンテナやらダンボールが積み上げられているため、圧迫感すらある狭さ。
おそらくは現在稼働中の倉庫だろう。
黒子は薬で眠らされて、その間に移動したらしい。
つまり黒子自身、今自分がいる場所がわからなかった。
確認はできないが、ポケットに入れていたスマートフォンや財布はなくなっているようだ。
現在地もわからず、金もスマホもない状態は、実に不安な気分にさせる。
ちなみに黒子のスニーカーにはGPS発信機が仕込まれている。
これは赤司が火神に指示したことだ。
聡明で未来予測に長けた男は、こんな事態までも想定していたらしい。
そのスニーカーはまだ黒子の足にあるが、これで探知してもらえるかどうかは微妙だった。
分厚いコンクリートの壁は、電波など容易に遮断してしまいそうだからだ。
「これは相当、怒られそうですね。」
黒子はポツリとそう呟いた。
このところの尾行や襲撃は、完全に律狙いだと思っていた。
だから「気をつけろ」とさんざん言われたけれど、今1つ危機感がなかったのだ。
むしろ何としても律を守ろうと思っており、自分に関しては無防備だった。
火神は今頃「だから言ったじゃないか」と怒っているだろう。
もしかして青峰あたりが「何やってたんだ」と怒鳴っているかもしれない。
何より困るのは、犯人の狙いがわからないことだ。
実はついさっきまで、犯人らしい覆面の男がいた。
その男が滔々と何かを語ったのが、おそらく犯行の目的だ。
だが残念なことに、黒子の英語力ではそれを聞き取れなかったのだ。
相手の英語は早口な上に、綺麗な発音ではなかったせいだ。
黒子は日常会話は何とかできる程度で、込み入った話はゆっくり話してくれないと無理だ。
「でもまぁ、すぐに殺されるようなことはなさそうですね。」
黒子はまたそう呟いた。
殺すつもりなら、こんなところに監禁などしないだろう。
それに相手が覆面をしていたことも、それを裏付けている。
解放する可能性があるからこそ、顔を隠していたのだ。
そう思うと、この状況下でも絶望的にならずにすむ。
「Excuse me!」
黒子は思い切り声を張り上げた。
とりあえず脱出に向けて、努力するべきだろう。
捕まったまま待っていては「幻の6人目(シックスマン)」の名がすたる。
「What?」
先程の覆面男がめんどくさそうな足取りで、こちらに向かって歩いて来た。
事実面倒なのだろう。
仕草から、いかにも短気そうな男であることが、わかる。
覆面のせいで人相はわからないが、肌の色は黒子と同じアジア系だ。
火神や青峰を見慣れている黒子からすると、ごく普通の体型。
それでも黒子よりは身長も体重もあるし、格闘になったらまず勝ち目はない。
いかにして隙を付くかが、大切だ。
「Please bring me to the restroom.」
黒子はゆっくりとそう告げた。
意味は「トイレに連れて行ってください」だが、とにかく丁寧な言葉を選んだつもりだ。
少しでも相手を油断させるのが重要だと思う。
時計がないから正確な時間はわからないが、長時間拘束されている。
決して不自然な要求でもないはずだ。
覆面男は舌打ちを1つすると、黒子を拘束しているロープを解き始めた。
さすがに稼働中の倉庫で粗相をされるのは、嫌なのだろう。
それに黒子の狙い通り、男は完全に黒子を舐めている。
黒子はかつて高校時代のバスケの試合で、相手チームの留学生選手に「子供」と称されたことがある。
その頃と比べて、身長も体重もほとんど変わっていないのだ。
拘束を解かれた黒子は、ゆっくりと歩き出した。
男は道順を指示し、黒子の後ろをついてくる。
狭い廊下を歩きながら、黒子はさりげなく辺りを観察する。
案内されているのは倉庫と廊下で繋がっているプレハブ小屋。
おそらくは何かの会社の事務所だろう。
よし、ここだ。
プレハブ小屋の出入口らしき扉の前に来たところで、黒子は壁のある一点を凝視した。
基本的な視線誘導(ミスディレクション)だ。
覆面男も何事かと、黒子が凝視した方を見る。
それを確認した黒子は、一気に走り出した。
そしてプレハブ小屋の扉を開けて、勢いよく外に飛び出したのだ。
覆面男が何やら叫んで追いかけてくるが、2人の差は開いていくばかりだ。
これでも一応、元バスケ選手、それに日々マンションのジムで鍛えている。
格闘は無理でも、逃げ足は何とかなるはずという読みは当たった。
プレハブの外は広大な倉庫街だった。
大きな倉庫が立ち並んでおり、人気はない。
黒子は適当に辺りをつけて、全力で走る。
だが入り組んだ道を曲がった瞬間、スーツ姿の男と激突した。
相手はよろめき、黒子は勢いよく地面に転がってしまう。
この人も誘拐犯?
黒子はすぐに立ち上がって、逃げようとする。
だが相手の男は黒子を見て「君は確か」と驚いた声を上げた。
予想外の日本語に黒子も驚き、相手の顔を見てさらに驚く。
相手は黒子の知っている男だったのだ。
どうしてここにこの人が。
黒子は予想外の事態に、呆然と立ち尽くした。
この男が誘拐犯の一味だとは、どうしても思いたくなかった。
だけど結局、拉致されてしまったわけだから、油断だったのだろう。
そして今、黒子は後手に縛られ、足も束ねられた状態で、拘束されている。
さらにその手と足は、ロープで繋がれているようだ。
それに気付かず、立ち上がろうとした黒子は、先程盛大に転倒した。
黒子が監禁されている部屋は、かなり特殊な場所だった。
無機質なコンクリートの床と壁、きっと元々はかなり広いようだ。
だが今はたくさんのコンテナやらダンボールが積み上げられているため、圧迫感すらある狭さ。
おそらくは現在稼働中の倉庫だろう。
黒子は薬で眠らされて、その間に移動したらしい。
つまり黒子自身、今自分がいる場所がわからなかった。
確認はできないが、ポケットに入れていたスマートフォンや財布はなくなっているようだ。
現在地もわからず、金もスマホもない状態は、実に不安な気分にさせる。
ちなみに黒子のスニーカーにはGPS発信機が仕込まれている。
これは赤司が火神に指示したことだ。
聡明で未来予測に長けた男は、こんな事態までも想定していたらしい。
そのスニーカーはまだ黒子の足にあるが、これで探知してもらえるかどうかは微妙だった。
分厚いコンクリートの壁は、電波など容易に遮断してしまいそうだからだ。
「これは相当、怒られそうですね。」
黒子はポツリとそう呟いた。
このところの尾行や襲撃は、完全に律狙いだと思っていた。
だから「気をつけろ」とさんざん言われたけれど、今1つ危機感がなかったのだ。
むしろ何としても律を守ろうと思っており、自分に関しては無防備だった。
火神は今頃「だから言ったじゃないか」と怒っているだろう。
もしかして青峰あたりが「何やってたんだ」と怒鳴っているかもしれない。
何より困るのは、犯人の狙いがわからないことだ。
実はついさっきまで、犯人らしい覆面の男がいた。
その男が滔々と何かを語ったのが、おそらく犯行の目的だ。
だが残念なことに、黒子の英語力ではそれを聞き取れなかったのだ。
相手の英語は早口な上に、綺麗な発音ではなかったせいだ。
黒子は日常会話は何とかできる程度で、込み入った話はゆっくり話してくれないと無理だ。
「でもまぁ、すぐに殺されるようなことはなさそうですね。」
黒子はまたそう呟いた。
殺すつもりなら、こんなところに監禁などしないだろう。
それに相手が覆面をしていたことも、それを裏付けている。
解放する可能性があるからこそ、顔を隠していたのだ。
そう思うと、この状況下でも絶望的にならずにすむ。
「Excuse me!」
黒子は思い切り声を張り上げた。
とりあえず脱出に向けて、努力するべきだろう。
捕まったまま待っていては「幻の6人目(シックスマン)」の名がすたる。
「What?」
先程の覆面男がめんどくさそうな足取りで、こちらに向かって歩いて来た。
事実面倒なのだろう。
仕草から、いかにも短気そうな男であることが、わかる。
覆面のせいで人相はわからないが、肌の色は黒子と同じアジア系だ。
火神や青峰を見慣れている黒子からすると、ごく普通の体型。
それでも黒子よりは身長も体重もあるし、格闘になったらまず勝ち目はない。
いかにして隙を付くかが、大切だ。
「Please bring me to the restroom.」
黒子はゆっくりとそう告げた。
意味は「トイレに連れて行ってください」だが、とにかく丁寧な言葉を選んだつもりだ。
少しでも相手を油断させるのが重要だと思う。
時計がないから正確な時間はわからないが、長時間拘束されている。
決して不自然な要求でもないはずだ。
覆面男は舌打ちを1つすると、黒子を拘束しているロープを解き始めた。
さすがに稼働中の倉庫で粗相をされるのは、嫌なのだろう。
それに黒子の狙い通り、男は完全に黒子を舐めている。
黒子はかつて高校時代のバスケの試合で、相手チームの留学生選手に「子供」と称されたことがある。
その頃と比べて、身長も体重もほとんど変わっていないのだ。
拘束を解かれた黒子は、ゆっくりと歩き出した。
男は道順を指示し、黒子の後ろをついてくる。
狭い廊下を歩きながら、黒子はさりげなく辺りを観察する。
案内されているのは倉庫と廊下で繋がっているプレハブ小屋。
おそらくは何かの会社の事務所だろう。
よし、ここだ。
プレハブ小屋の出入口らしき扉の前に来たところで、黒子は壁のある一点を凝視した。
基本的な視線誘導(ミスディレクション)だ。
覆面男も何事かと、黒子が凝視した方を見る。
それを確認した黒子は、一気に走り出した。
そしてプレハブ小屋の扉を開けて、勢いよく外に飛び出したのだ。
覆面男が何やら叫んで追いかけてくるが、2人の差は開いていくばかりだ。
これでも一応、元バスケ選手、それに日々マンションのジムで鍛えている。
格闘は無理でも、逃げ足は何とかなるはずという読みは当たった。
プレハブの外は広大な倉庫街だった。
大きな倉庫が立ち並んでおり、人気はない。
黒子は適当に辺りをつけて、全力で走る。
だが入り組んだ道を曲がった瞬間、スーツ姿の男と激突した。
相手はよろめき、黒子は勢いよく地面に転がってしまう。
この人も誘拐犯?
黒子はすぐに立ち上がって、逃げようとする。
だが相手の男は黒子を見て「君は確か」と驚いた声を上げた。
予想外の日本語に黒子も驚き、相手の顔を見てさらに驚く。
相手は黒子の知っている男だったのだ。
どうしてここにこの人が。
黒子は予想外の事態に、呆然と立ち尽くした。
この男が誘拐犯の一味だとは、どうしても思いたくなかった。
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