Triangle
大ちゃん、また同じクラスだね。
桃井は嬉しそうな笑顔で、そう言った。
だが青峰は「そうだったか?」とつまらなそうに言い放つと、思い切り欠伸をした。
4月、新学期。
桃井さつきと幼なじみの青峰大輝は高校2年生になった。
2人が通う高校では、2年のときに最初で最後のクラス替えをする。
1年の時同じクラスだった桃井と青峰は、2年でも同じクラスだった。
2人は幼稚園から、小学校、中学、高校と、ずっと一緒だった。
それどころかクラスまで一緒だ。
双方の両親は「すごい偶然だね」と言う。
だが桃井は、問題児である青峰のお目付役にされているのではないかと思っている。
自己主張が強く、体力も腕力もあり、口より先に手が出るタイプ。
そんな青峰も、桃井の言うことはそれなりに聞く。
だからストッパーとして、意図的に同じクラスにしているのではないだろうか。
そして高校2年のクラス替えでも、また一緒。
新学期初日、掲示板に張り出されたクラス割りを見た2人だったが、新しい教室には行かない。
2人が向かったのは、屋上だった。
正確には屋上に向かう青峰を桃井が追いかけた。
屋上に着くなり、青峰はカバンを枕にして、ゴロリと寝そべっていた。
桃井もその横で体育座りをして、しばらくは春の日差しを楽しんだのだ。
本当は屋上は転落などの事故防止のために、生徒は立入禁止になっている。
だが青峰はまったく無視だ。
鍵がかかっていないのをいいことに、自由に出入りしている。
大ちゃん。もう行かないと入学式が始まっちゃうよ。
桃井は窘めるように、そう言った。
そろそろ教室に行かなければならない時間が近づいても、青峰は動かないからだ。
桃井は「教室行こうよ、大ちゃん」とまた促した。
入学式が終わった頃に行けばいいだろ。
別にオレらは出る必要ねーし。
青峰はそう言い放って、目を閉じてしまった。
どうやら本当に入学式に出ない気なのだろう。
目を閉じたということは寝るという意思表示。
つまり桃井は好きにしろと言っているのだ。
真面目な桃井が入学式をサボるなんてできないとわかってるのだ。
だが桃井は「ダメだよ、大ちゃん!」と声を荒げた。
新学期早々サボりなんて、絶対ダメ!
桃井はそう叫ぶと、青峰の腕を掴んで、起こそうとした。
だが長身で体格のいい青峰を、小柄な女子の桃井が動かせるはずもない。
桃井が「大ちゃんのバカ!ガングロ!」と悔し紛れの悪口に移行する。
さすがにカチンと来た青峰が「うるせーな!眠れねーじゃねーか!」と叫び返した。
すると2人の背後から「あの」と声が掛けられた。
他に誰もいないと思っていた青峰と桃井が「「うわぁ~!!」」と驚きの声を上げた。
すみませんが、静かにしていただけませんか?
立っていたのは、1人の少年だった。
制服を着ているから、この高校の生徒だろう。
細身で小柄、顔立ちはかわいいと言えなくもないが、青峰も桃井もそこはスルーだ。
青峰は「おどかすな」と文句を言い、桃井は「いつの間に」と率直な感想を漏らした。
申し訳ないですが、ボクの方が先にいました。
これ以上騒ぐのであれば、他所に行ってください。
少年はそう言い放つと、スタスタと隅に歩いていく。
そして壁際に背中を預けるように座り込むと、置いてあった本を読み始めた。
おそらく青峰と桃井が来る前から、そうしていたのだろう。
気配をまったく感じず、全然気がつかなかった。
結局、青峰と桃井は入学式に出席した。
あの少年のせいで、屋上に居づらくなったのだ。
そして新しいクラスで席に付き、新担任がやってくるのを待つ。
そこに教師と一緒に現れたのは、屋上で見た少年だった。
青峰と桃井は思わず「「さっきの!!」」と声を上げ、新学期早々担任教師に注意された。
転校生の黒子テツヤ君だ。みんな仲良くするように。
担任教師はベタに黒板に少年の名前を書いた。
紹介された少年は「どうも」と頭を下げた。
そして教師の指示に従い、空いている一番後ろの席についた。
なぁ、お前なんでさっき、屋上にいたの?
今日は授業もなく、新学期の諸注意や説明も終わり、生徒たちは下校していく。
青峰は1人で帰ろうとする黒子を捕まえて、そう聞いた。
すると黒子は「入学式に出る必要もないかと思って、暇つぶしに」と答える。
それを聞いた青峰は、爆笑した。
こいつも自分と同じことを考えていたのかと思うだけで、愉快だったのだ。
桃井は爆笑する青峰と無表情の黒子を見ながら、微笑した。
あまりにも対照的な2人が話しているのが、面白かったのだ。
それにこの転校生は、何だか仲良くなれそうな気がする。
何よりいつもクラスから浮いている青峰に友人ができるのはいいことだ。
このときは桃井も前向きに考えていた。
のちのち青峰と黒子、そして自分が複雑なトライアングルになるなんて、夢にも思わなかった。
桃井は嬉しそうな笑顔で、そう言った。
だが青峰は「そうだったか?」とつまらなそうに言い放つと、思い切り欠伸をした。
4月、新学期。
桃井さつきと幼なじみの青峰大輝は高校2年生になった。
2人が通う高校では、2年のときに最初で最後のクラス替えをする。
1年の時同じクラスだった桃井と青峰は、2年でも同じクラスだった。
2人は幼稚園から、小学校、中学、高校と、ずっと一緒だった。
それどころかクラスまで一緒だ。
双方の両親は「すごい偶然だね」と言う。
だが桃井は、問題児である青峰のお目付役にされているのではないかと思っている。
自己主張が強く、体力も腕力もあり、口より先に手が出るタイプ。
そんな青峰も、桃井の言うことはそれなりに聞く。
だからストッパーとして、意図的に同じクラスにしているのではないだろうか。
そして高校2年のクラス替えでも、また一緒。
新学期初日、掲示板に張り出されたクラス割りを見た2人だったが、新しい教室には行かない。
2人が向かったのは、屋上だった。
正確には屋上に向かう青峰を桃井が追いかけた。
屋上に着くなり、青峰はカバンを枕にして、ゴロリと寝そべっていた。
桃井もその横で体育座りをして、しばらくは春の日差しを楽しんだのだ。
本当は屋上は転落などの事故防止のために、生徒は立入禁止になっている。
だが青峰はまったく無視だ。
鍵がかかっていないのをいいことに、自由に出入りしている。
大ちゃん。もう行かないと入学式が始まっちゃうよ。
桃井は窘めるように、そう言った。
そろそろ教室に行かなければならない時間が近づいても、青峰は動かないからだ。
桃井は「教室行こうよ、大ちゃん」とまた促した。
入学式が終わった頃に行けばいいだろ。
別にオレらは出る必要ねーし。
青峰はそう言い放って、目を閉じてしまった。
どうやら本当に入学式に出ない気なのだろう。
目を閉じたということは寝るという意思表示。
つまり桃井は好きにしろと言っているのだ。
真面目な桃井が入学式をサボるなんてできないとわかってるのだ。
だが桃井は「ダメだよ、大ちゃん!」と声を荒げた。
新学期早々サボりなんて、絶対ダメ!
桃井はそう叫ぶと、青峰の腕を掴んで、起こそうとした。
だが長身で体格のいい青峰を、小柄な女子の桃井が動かせるはずもない。
桃井が「大ちゃんのバカ!ガングロ!」と悔し紛れの悪口に移行する。
さすがにカチンと来た青峰が「うるせーな!眠れねーじゃねーか!」と叫び返した。
すると2人の背後から「あの」と声が掛けられた。
他に誰もいないと思っていた青峰と桃井が「「うわぁ~!!」」と驚きの声を上げた。
すみませんが、静かにしていただけませんか?
立っていたのは、1人の少年だった。
制服を着ているから、この高校の生徒だろう。
細身で小柄、顔立ちはかわいいと言えなくもないが、青峰も桃井もそこはスルーだ。
青峰は「おどかすな」と文句を言い、桃井は「いつの間に」と率直な感想を漏らした。
申し訳ないですが、ボクの方が先にいました。
これ以上騒ぐのであれば、他所に行ってください。
少年はそう言い放つと、スタスタと隅に歩いていく。
そして壁際に背中を預けるように座り込むと、置いてあった本を読み始めた。
おそらく青峰と桃井が来る前から、そうしていたのだろう。
気配をまったく感じず、全然気がつかなかった。
結局、青峰と桃井は入学式に出席した。
あの少年のせいで、屋上に居づらくなったのだ。
そして新しいクラスで席に付き、新担任がやってくるのを待つ。
そこに教師と一緒に現れたのは、屋上で見た少年だった。
青峰と桃井は思わず「「さっきの!!」」と声を上げ、新学期早々担任教師に注意された。
転校生の黒子テツヤ君だ。みんな仲良くするように。
担任教師はベタに黒板に少年の名前を書いた。
紹介された少年は「どうも」と頭を下げた。
そして教師の指示に従い、空いている一番後ろの席についた。
なぁ、お前なんでさっき、屋上にいたの?
今日は授業もなく、新学期の諸注意や説明も終わり、生徒たちは下校していく。
青峰は1人で帰ろうとする黒子を捕まえて、そう聞いた。
すると黒子は「入学式に出る必要もないかと思って、暇つぶしに」と答える。
それを聞いた青峰は、爆笑した。
こいつも自分と同じことを考えていたのかと思うだけで、愉快だったのだ。
桃井は爆笑する青峰と無表情の黒子を見ながら、微笑した。
あまりにも対照的な2人が話しているのが、面白かったのだ。
それにこの転校生は、何だか仲良くなれそうな気がする。
何よりいつもクラスから浮いている青峰に友人ができるのはいいことだ。
このときは桃井も前向きに考えていた。
のちのち青峰と黒子、そして自分が複雑なトライアングルになるなんて、夢にも思わなかった。
1/15ページ