カラフル

黒子テツヤです。
またしても増えてしまった弟が、几帳面に頭を下げる。
そして顔を上げ、目が合った瞬間、5人の視線はまだ子供のような少年に釘づけになった。

白金家は元々名門の家ではあった。
だが日本を代表するほどの資産家になったのは、先代の当主の時だ。
先祖代々引き継いだ巨万の富を元手に、次々と新しい事業を立ち上げた。
そしてそれをことごとく成功させ、さらに資産が膨れ上がったのだ。

もちろんそれは先代当主である白金耕造の手腕によるところが大きい。
時代を読み、儲かる商売を見出す眼力、そして惜しみなく大金を投資する度胸。
そして今では、経済界でその名を知らない者はいないほどの立志伝を打ち立てた。
だがその息子である現当主、永治は別のことで有名だった。
曰く、女性関係が派手過ぎることだ。

元々性欲が強いのか、それとも偉大な父と事あるごとに比べられる反動か。
永治は正妻を持たないにも関わらず、家の外に複数の愛人を作った。
その数はもう何人いるのかわからず、愛人と成した男の子は5名にもなる。
その5名の男子たちは白金家に引き取られていた。
彼らのうちの誰かが家を継ぎ、残りの者は新しい当主を盛り立てていく。
それが永治の考える次の世代の白金家のようだ。

そんな中、白金家に新たな少年が現れた。
彼もまた白金の血を引いており、5人にとっては弟に当たる。
父からそれを聞かされた5人の息子たちは一様に「メンドクセ~!」と思った。
幼い頃に母親から引き離され、白金家で暮らす彼らは永治に認知こそされている。
だが戸籍の上では未だ母方の性を名乗っていたのだ。
そのせいか、白金家の子供という意識は希薄だ。
他の息子についても、別に嫌いではないが、兄弟という感覚はあまりない。
そんな中でさらに弟が増えるのだと聞かされても「またか」としか思えなかったのだ。

新しい弟の年齢もまた悩ましい事態だった。
高校1年だなんて、もう子供らしさはあまりなく、憎たらしいだけの時期だと思う。
現在の5人は一番年長が赤司征十郎で20代半ば。
そして一番年下は黄瀬涼太の大学の1年生だ。
もっと歳を重ねれば、大した年齢差ではないと思う。
だけど20歳そこそこで数年の生まれの差は大きい。
それに現に彼ら自身が高校生の頃は、かなりひねくれた少年だったという自覚がある。
ここへ来て新しい弟の存在は、鬱陶しい以外の何物でもなかったのだが。

白金邸のリビングに集められた5人は、驚いていた。
父に連れられて現れた少年は、あまりにも想像と違っていたからだ。
どうやら遺伝らしく、白金の息子たちはみな身体が大きい。
三男の紫原敦が身長2メートル超。
次男の緑間真太郎、四男の青峰大輝、末弟の黄瀬涼太ももう少しで2メートルだ。
唯一180センチを少し超える長男、赤司征十郎が小さく見えるほどだ。
当然6番目も、大柄で野性味たっぷりな男だと思っていたのだ。
だが現れたのは、中学生と名乗っても信じてしまいそうな小柄な少年だった。

黒子テツヤです。
またしても増えてしまった弟が、几帳面に頭を下げる。
そして顔を上げ、目が合った瞬間、5人の視線はまだ子供のような少年に釘づけになった。
かわいいのだ。
一見したところ地味で驚くほど平凡、だがよくよく見ると顔立ちは整っている。
フワリと柔らかそうな髪は、大きな瞳と同じ不思議な色だ。
男らしさをまったく感じないが、決して女々しい印象でもない。
凛とした中性的な面差しは、性別など超越しているようにさえ見えた。

よろしく。仲良くしようね~♪
一番に少年に声をかけたのは、黄瀬だ。
ギュッと抱き付こうとした瞬間、横から手を伸ばして割り込んだのは青峰だ。
こんなチャラ男の言うこと、聞かなくていいぞ。
青峰は手を伸ばしてワシャワシャと少年の髪をかき回した。
負けじと紫原が「お菓子、あげる」と近寄る。
すると緑間が「この子は高校生だぞ。お菓子で釣るな」と緑間までが参入する。
こら。まずは自己紹介だろう。テツヤが困ってる。
最後に全員を制したのが、長男の赤司だ。

ありがとうございます。みなさんが親切でよかったです。
少年がわずかに頬と唇を緩めた。
本当に小さな小さな微笑だ。
だがずっと無表情だっただけに、その落差は大きかった。
まるで「ズキューン」と擬音がつく勢いで、彼らは心を撃ち抜かれてしまったのだ。

白金家のカラフルな兄弟たちに、弟が1人加わった。
このことでギクシャクしていた5人の心が、次第に変化する。
そしてそれなりに平穏だった彼らに、騒動が巻き起こることになるのだった。
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