スクールカウンセラー黒子
こんにちは。黒子先生。
赤司は挨拶をしながら、カウンセリングルームの扉を開けた。
パソコンを操作していた黒子は、画面から目を上げると「こんにちは」と挨拶を返してくれた。
赤司征十郎は優等生だ。
名門で学力優秀な洛山高校の入試で、満点を獲得した秀才。
外見は整った顔立ちと良家の子息である育ちのよさと相まって、穏やかな雰囲気を作り上げている。
おかげで生徒たちからの人望も厚く、1年にして生徒会長と所属する部の部長を務めていた。
そんな赤司が時々顔を出すのが、カウンセリングルームだ。
昼休み、または放課後の生徒会や部活の前のわずかな時間をここで過ごす。
洛山高校では、スクールカウンセラーを置いている。
名門校であるから、一見して荒れているような生徒はいない。
だがほぼ全員が有名大学に進学するという偏差値が高い学校なのだ。
受験のストレスなどで悩む生徒のために、専門の相談員を置いている。
ちなみに受験以外のカウンセリングだって、もちろん受け付けている。
事前に予約をして、カウンセリングルームを訪ねるのが原則。
だが誰も予約をしていなければ、いきなり行ってもカウンセラーが相手をしてくれる。
スクールカウンセラーの名は、黒子テツヤ。
大学と大学院で心理学を学び、臨床心理士の資格を持っている。
年齢は赤司と10歳も離れているが、すごく若く見える。
洛山高校の制服を着せたら、違和感なく高校生で通ってしまいそうだ。
だがそんな外見にかかわらず、生徒たちとあまり打ち解けて話すことはない。
いつも冷静で、感情を表情に出すこともほとんどない。
赤司にはあえて一線を引いているように見えた。
生徒の悩みに関しては守秘義務がある。
うっかり他の生徒に喋ったりしないように、距離を置いているのだろう。
赤司が最初にこのカウンセリングルームを訪れたのは、義務感からだった。
1年にして生徒会長にして部長である赤司は、完璧主義者なのだ。
この学校の施設をすべて把握しておこうと考えた。
そしてそれはスクールカウンセラーについても同様だ。
黒子テツヤは生徒たちの悩みを相談するに足る人物なのか。
それを見極めてやるつもりだった。
ではまずその用紙に、クラスと名前を記入してください。
まずは指示されたテーブルにつくと、1枚の用紙とペンを渡される。
赤司がクラスと名前を記入して返すと、黒子はその用紙をメモパッドに挟んだ。
そして赤司の正面に座り「それじゃお話ししましょう」と告げる。
赤司が記入した用紙の余白に、いろいろ書き込んでいくようだ。
赤司君は生徒会長さんで部長さんですか。1年なのにすごいですね。
お父さんとお母さんのこと、好きですか?
大学に進むんですよね。志望校は決まってますか?
好きな食べ物はなんですか?
黒子はやわらかい口調で、終始穏やかに質問を重ねていく。
その腕前は見事というしかなかった。
決して「悩んでることはありますか?」なんて、野暮なことは言わない。
質問はごく他愛無いことばかりだ。
好きな科目や苦手な科目、生徒会、部活、そして家での生活など。
当たり障りのない質問を繰り返す。
そうしておしゃべりをしているうちに、本人でさえ気づかなかった悩みを察してしまうのだ。
赤司君は何でもより完璧にやることを目指していますね。
それは素晴らしいことです。
だけど赤司君は、もう他の人から見て完璧すぎるくらい完璧ですよ。
だからもう少し力を抜いても、大丈夫です。
赤司の話をすべて聞き終えた黒子は、そう言った。
その言葉に、赤司は自分がプレッシャーを感じていたことに気付いたのだ。
生徒会長、部長、そして赤司家の跡取り。
常に優秀で完璧でなければならないと思い込んでいた。
そんな赤司に黒子は「もう少し力を抜いても、大丈夫」と言った。
力を抜けと命令するのではなく、抜いても大丈夫なのだと。
その言葉は赤司の気持ちを、すうっと楽にしてくれた。
以来時間が空くと、頻繁にカウンセリングルームの黒子を訪ねることにした。
こんにちは。黒子先生。
今日も赤司は挨拶をしながら、カウンセリングルームの扉を開けた。
パソコンを操作していた黒子は、画面から目を上げると「こんにちは」と挨拶を返してくれた。
そして毎度おなじみの「クラスと名前を記入してください」というセリフと共に、紙を渡される。
いいかげんもうこれ、書かなくてもいいんじゃないですか?
赤司は文句を言いながらも、クラスと名前を記入して用紙を返す。
すると黒子は「決まりですから」といつも通りの冷静な表情で答える。
この部屋に入った生徒の名前は、全部記録しておく。
それが黒子流の几帳面さなのだろう。だけど。
相談する側とされる側ではなく、対等な立場で向き合いたい。
赤司はそう思いながら、心の中でそっとため息をついた。
みんなの悩みを解決するスクールカウンセラーにだって、きっと悩みはある。
それを受け止めて、支える男になりたいと思うのだ。
赤司は挨拶をしながら、カウンセリングルームの扉を開けた。
パソコンを操作していた黒子は、画面から目を上げると「こんにちは」と挨拶を返してくれた。
赤司征十郎は優等生だ。
名門で学力優秀な洛山高校の入試で、満点を獲得した秀才。
外見は整った顔立ちと良家の子息である育ちのよさと相まって、穏やかな雰囲気を作り上げている。
おかげで生徒たちからの人望も厚く、1年にして生徒会長と所属する部の部長を務めていた。
そんな赤司が時々顔を出すのが、カウンセリングルームだ。
昼休み、または放課後の生徒会や部活の前のわずかな時間をここで過ごす。
洛山高校では、スクールカウンセラーを置いている。
名門校であるから、一見して荒れているような生徒はいない。
だがほぼ全員が有名大学に進学するという偏差値が高い学校なのだ。
受験のストレスなどで悩む生徒のために、専門の相談員を置いている。
ちなみに受験以外のカウンセリングだって、もちろん受け付けている。
事前に予約をして、カウンセリングルームを訪ねるのが原則。
だが誰も予約をしていなければ、いきなり行ってもカウンセラーが相手をしてくれる。
スクールカウンセラーの名は、黒子テツヤ。
大学と大学院で心理学を学び、臨床心理士の資格を持っている。
年齢は赤司と10歳も離れているが、すごく若く見える。
洛山高校の制服を着せたら、違和感なく高校生で通ってしまいそうだ。
だがそんな外見にかかわらず、生徒たちとあまり打ち解けて話すことはない。
いつも冷静で、感情を表情に出すこともほとんどない。
赤司にはあえて一線を引いているように見えた。
生徒の悩みに関しては守秘義務がある。
うっかり他の生徒に喋ったりしないように、距離を置いているのだろう。
赤司が最初にこのカウンセリングルームを訪れたのは、義務感からだった。
1年にして生徒会長にして部長である赤司は、完璧主義者なのだ。
この学校の施設をすべて把握しておこうと考えた。
そしてそれはスクールカウンセラーについても同様だ。
黒子テツヤは生徒たちの悩みを相談するに足る人物なのか。
それを見極めてやるつもりだった。
ではまずその用紙に、クラスと名前を記入してください。
まずは指示されたテーブルにつくと、1枚の用紙とペンを渡される。
赤司がクラスと名前を記入して返すと、黒子はその用紙をメモパッドに挟んだ。
そして赤司の正面に座り「それじゃお話ししましょう」と告げる。
赤司が記入した用紙の余白に、いろいろ書き込んでいくようだ。
赤司君は生徒会長さんで部長さんですか。1年なのにすごいですね。
お父さんとお母さんのこと、好きですか?
大学に進むんですよね。志望校は決まってますか?
好きな食べ物はなんですか?
黒子はやわらかい口調で、終始穏やかに質問を重ねていく。
その腕前は見事というしかなかった。
決して「悩んでることはありますか?」なんて、野暮なことは言わない。
質問はごく他愛無いことばかりだ。
好きな科目や苦手な科目、生徒会、部活、そして家での生活など。
当たり障りのない質問を繰り返す。
そうしておしゃべりをしているうちに、本人でさえ気づかなかった悩みを察してしまうのだ。
赤司君は何でもより完璧にやることを目指していますね。
それは素晴らしいことです。
だけど赤司君は、もう他の人から見て完璧すぎるくらい完璧ですよ。
だからもう少し力を抜いても、大丈夫です。
赤司の話をすべて聞き終えた黒子は、そう言った。
その言葉に、赤司は自分がプレッシャーを感じていたことに気付いたのだ。
生徒会長、部長、そして赤司家の跡取り。
常に優秀で完璧でなければならないと思い込んでいた。
そんな赤司に黒子は「もう少し力を抜いても、大丈夫」と言った。
力を抜けと命令するのではなく、抜いても大丈夫なのだと。
その言葉は赤司の気持ちを、すうっと楽にしてくれた。
以来時間が空くと、頻繁にカウンセリングルームの黒子を訪ねることにした。
こんにちは。黒子先生。
今日も赤司は挨拶をしながら、カウンセリングルームの扉を開けた。
パソコンを操作していた黒子は、画面から目を上げると「こんにちは」と挨拶を返してくれた。
そして毎度おなじみの「クラスと名前を記入してください」というセリフと共に、紙を渡される。
いいかげんもうこれ、書かなくてもいいんじゃないですか?
赤司は文句を言いながらも、クラスと名前を記入して用紙を返す。
すると黒子は「決まりですから」といつも通りの冷静な表情で答える。
この部屋に入った生徒の名前は、全部記録しておく。
それが黒子流の几帳面さなのだろう。だけど。
相談する側とされる側ではなく、対等な立場で向き合いたい。
赤司はそう思いながら、心の中でそっとため息をついた。
みんなの悩みを解決するスクールカウンセラーにだって、きっと悩みはある。
それを受け止めて、支える男になりたいと思うのだ。
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