Old book Store
ったく、何を好き好んで。
火神は店に入るなり、独特の古いインクのにおいに顔をしかめる。
そしてカウンターでウトウトと居眠りをする店主に、ため息をついた。
とある商店街の中に、その店はあった。
シャッター通りが増える昨今において、ここも例外ではない。
かつては繁盛したであろう商店街は半分近くが空き店舗だ。
しかも営業している店舗の8割は、大手のチェーン店。
つまり個人経営の店は、ほぼ絶滅の危機に瀕している。
そんな中、その店はひっそりと影のように佇んでいた。
そもそも古書店、色味がなくビジュアルが地味だ。
それに電子書籍全盛、本自体が売れない時代。
さらに古書店なんて、そうそう繁盛するはずはない。
実際火神はこの店に客がいるのを見たことがなかった。
それに店主の影の薄さも相まって、とにかく寂れた感がハンパない。
火神は店の前に立つと、古びた看板を見上げた。
誠凛堂書店という店の名前が書かれている。
なんでこんな名前なんだ?
高校卒業後、すぐにこの古書店の店主に納まった友人に火神はそう聞いた。
すると彼は「別に意味はありません」と答えた。
元々この店はもう数十年以上、とある老夫婦が経営していた。
だが高齢のため閉店しようとしていたのを、そのまま話をつけて店ごと買い取ったのだ。
つまり看板も店名もそのまま、変えるのが面倒という理由で使い続けている。
ったく、何を好き好んで。
火神はいつもここに来るたびに思うことを、今日も思った。
そして独特の古いインクのにおいに顔をしかめる。
彼には誰にも負けない、世界最高レベルの才能がある。
それがどうしてこんな店でくすぶっているのか。
店の奥に進むとカウンターでウトウトと居眠りをする店主を見つける。
火神はその姿にため息をついた。
ここは彼1人でやっている店なのだ。
これでは不審者に入られまくり、商品は取られまくりだ。
もっとも希少本はないという話だし、盗むものなどなさそうだが。
おい。黒子。起きろ!
火神はここで声を張り上げた。
店主の黒子テツヤがパチリと目を開ける。
だがすぐに「何だ、火神君ですか」とまた目を閉じてしまった。
まったく失礼にも程がある。
こんなんでやっていけてるのかよ。
火神は思わずそう呟いた。
経営は間違いなく赤字だと思う。
するとまた眠ったと思われた黒子が「ご心配なく」と答えた。
そして大きく伸びをすると、店の壁にかかっている古めかしい掛け時計を見上げた。
ああ、結構寝ちゃったみたいですね。
黒子はゆっくりと立ち上がると、首や肩を回し始めた。
長時間の居眠りで、身体が強張ってしまったらしい。
そして火神を見上げると「ヒマなら掃除を手伝ってください」と言い出した。
何でオレが!と返したときには、もうはたきを渡されていた。
まったく、またこれだ。
いつも黒子のペースに巻き込まれてしまう。
火神はもう1度ため息をつくと、店内に並ぶ古い本たちにパタパタとはたきをかけ始めた。
今のところ、何もない。
それでも火神はこうして時間があれば、この古書店にやってくる。
火神だけではなく、高校時代の仲間たちはみなそうだ。
足しげくこの店に通っている。
その理由はたった1つ、黒子テツヤという人物に惹かれているからだった。
こいつがここでこのまま埋もれるはずなどない。
絶対に何か面白いことをやらかす。
それを見たいから、こうしてこの古書店を訪れるのだ。
火神は店に入るなり、独特の古いインクのにおいに顔をしかめる。
そしてカウンターでウトウトと居眠りをする店主に、ため息をついた。
とある商店街の中に、その店はあった。
シャッター通りが増える昨今において、ここも例外ではない。
かつては繁盛したであろう商店街は半分近くが空き店舗だ。
しかも営業している店舗の8割は、大手のチェーン店。
つまり個人経営の店は、ほぼ絶滅の危機に瀕している。
そんな中、その店はひっそりと影のように佇んでいた。
そもそも古書店、色味がなくビジュアルが地味だ。
それに電子書籍全盛、本自体が売れない時代。
さらに古書店なんて、そうそう繁盛するはずはない。
実際火神はこの店に客がいるのを見たことがなかった。
それに店主の影の薄さも相まって、とにかく寂れた感がハンパない。
火神は店の前に立つと、古びた看板を見上げた。
誠凛堂書店という店の名前が書かれている。
なんでこんな名前なんだ?
高校卒業後、すぐにこの古書店の店主に納まった友人に火神はそう聞いた。
すると彼は「別に意味はありません」と答えた。
元々この店はもう数十年以上、とある老夫婦が経営していた。
だが高齢のため閉店しようとしていたのを、そのまま話をつけて店ごと買い取ったのだ。
つまり看板も店名もそのまま、変えるのが面倒という理由で使い続けている。
ったく、何を好き好んで。
火神はいつもここに来るたびに思うことを、今日も思った。
そして独特の古いインクのにおいに顔をしかめる。
彼には誰にも負けない、世界最高レベルの才能がある。
それがどうしてこんな店でくすぶっているのか。
店の奥に進むとカウンターでウトウトと居眠りをする店主を見つける。
火神はその姿にため息をついた。
ここは彼1人でやっている店なのだ。
これでは不審者に入られまくり、商品は取られまくりだ。
もっとも希少本はないという話だし、盗むものなどなさそうだが。
おい。黒子。起きろ!
火神はここで声を張り上げた。
店主の黒子テツヤがパチリと目を開ける。
だがすぐに「何だ、火神君ですか」とまた目を閉じてしまった。
まったく失礼にも程がある。
こんなんでやっていけてるのかよ。
火神は思わずそう呟いた。
経営は間違いなく赤字だと思う。
するとまた眠ったと思われた黒子が「ご心配なく」と答えた。
そして大きく伸びをすると、店の壁にかかっている古めかしい掛け時計を見上げた。
ああ、結構寝ちゃったみたいですね。
黒子はゆっくりと立ち上がると、首や肩を回し始めた。
長時間の居眠りで、身体が強張ってしまったらしい。
そして火神を見上げると「ヒマなら掃除を手伝ってください」と言い出した。
何でオレが!と返したときには、もうはたきを渡されていた。
まったく、またこれだ。
いつも黒子のペースに巻き込まれてしまう。
火神はもう1度ため息をつくと、店内に並ぶ古い本たちにパタパタとはたきをかけ始めた。
今のところ、何もない。
それでも火神はこうして時間があれば、この古書店にやってくる。
火神だけではなく、高校時代の仲間たちはみなそうだ。
足しげくこの店に通っている。
その理由はたった1つ、黒子テツヤという人物に惹かれているからだった。
こいつがここでこのまま埋もれるはずなどない。
絶対に何か面白いことをやらかす。
それを見たいから、こうしてこの古書店を訪れるのだ。
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