Dormitory

なぁ、誰だ?あれ。
火神は面白くなさそうに、談話スペースを指さす。
青峰もまた不満そうに顔を歪めながら「知るか」と吐き捨てた。

本当にここは東京都内なのか?
思わずそう叫びたくなるような山の中に、その高校があった。
広い敷地内には校舎とグラウンド、そして寮。
ここは今時珍しい全寮制の学校なのだ。
しかも敷地は高いフェンスで覆われており、何ヶ所かの出入り口はしっかりと施錠されている。
つまり自由に外に出ることができないのだ。
授業のある日は外出禁止、休日は申請して許可をもらわなければならなかった。

こんな学校に通う生徒は、大きく2つに別れる。
1つは暴力等で親に匙を投げられた場合。
もう1つは何か特別な事情にあり、普通の高校生活を送れない場合だ。

火神大我と青峰大輝は、前者だった。
体格もよく、野性味を帯びた雰囲気の彼らは、とにかく目立つ存在だった。
その上、短気であり、理不尽なことや筋が通らないことは大嫌い。
だがら昔からからまれたり、ケンカを売られることは日常茶飯事だった。
さらに2人とも売られたケンカは逃げずに買う主義だ。
つまりこの学校にぶち込まれたのは、まぁ必然と言えるだろう。

そんな彼らの視線は、共同ロビーの片隅に注がれていた。
小さなテーブルと椅子が置かれ、衝立で仕切られた場所。
そこは談話スペースと呼ばれている。
生徒と面会に訪れた客が話をする場所だ。
衝立のおかげで丸見えにはならないが、誰だかはわかる。
聞き耳を立てれば、会話も漏れ聞こえてくる。

そこで話し込んでいるのは、彼らと同じ1年生の生徒だった。
火神や青峰とは対照的に、小柄で影が薄い男。
相対しているのは、やはり同年代の男だった。
さしずめ幼なじみか、小学校か中学校のクラスメイトか。

火神、青峰とこの影の薄い男はよく行動を共にしていた。
友だちなどというのはくすぐったいが、そこそこ気が合うつもりだ。
そんな彼が知らない同年代の男と話をしている。
来客と会っているだけなのに、妙に心が騒いだ。

それじゃ黒子、元気でな。メールすっから。
わざわざ来てくれてありがとうございます。荻原君。
談話スペースの2人はそんなことを言いながら、腰を上げた。
そして正面玄関で握手をして、手を振りながら別れていく。

そんな彼らを見守りながら、火神と青峰は不機嫌だった。
滅多に笑わない彼が、知らないヤツと談笑しているのが妙に癪に障ったのだ。
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