Antique Shop

10年バスーカ、お気に召しませんでしたか?
黒子は平坦な声でそう聞いた。
だが実際、これが戻って来ることは予想していた。

東京都内某所、繁華街の路地裏にある骨董店。
看板も出していないから、外から見ても何を売っている店かはよくわからない。
そもそも営業しているかさえもわからないだろう。
それほど古くて小さく、しかも少々胡散臭さもある。
さながら英国の魔法使いの物語に出てくる魔法用具店のような風情だ。

黒子はその店のオーナーだった。
そんな風に言えば聞こえはいいが、実際は店員も兼ねている。
つまり1人で切り盛りしていた。

店には風変わりな品物が多かった。
骨董店と言っても、美術品のようなものはほとんどない。
アクセサリーあり、インテリアあり、古い家電や玩具あり、なんなら信楽焼のタヌキまである。
店に置く商品は、黒子の気分次第だった。
インスピレーションで気に入れば、仕入れる。

また客が持ちこむ品物を買い取る場合もある。
そういうときには、品物の価値はあまり問題にしなかった。
客がどういう理由でその商品を手に入れ、またどういう理由で手放すのか。
買い取る基準は、その商品にまつわるエピソードだった。

そんな感じで商売、成り立つんですか?
時折黒子にそんなことを訊ねる者もいる。
黒子のやり方は完全に趣味に走ったもので、ほとんど道楽の域だからだ。
だけど実はしっかりと儲けが出ている。
この店には胡散臭さを上回る面白さがあり、人を惹きつけるのだ。

この日は以前、この店で買い物をした若い男性客がまた来店した。
まるで黒髪で長身、まるでモデルかタレントのようなイケメンだ。
彼はここで購入した商品を持参していた。
どうやら売りに来たらしい。

10年バスーカ、お気に召しませんでしたか?
黒子は平坦な声でそう聞いた。
彼が購入した商品10年バズーカはこの店でも1、2を争う風変わりな商品だ。
これで撃たれた者は5分間だけ10年後の自分と入れ代わる。
まれに精神を残して身体のみが入れ替わったり、10年前と入れ替わったりするらしい。

いや。気に入ったよ。楽しませてもらった。
だけどもう充分だから。
イケメンの客は笑顔でそう言ってから「買取をお願いします」と商品をカウンターに置いた。
黒子は「かしこまりました」と頭を下げると、電卓に数字を打ち込む。
そして「これでいかがでしょう?」と電卓を見せると、イケメン客は「OKです」と頷いた。

10年バズーカは一点もので、人気商品なのだ。
店に出せば、すぐに売れる。
だがまるでブーメランのように、しっかり戻ってくるのだ。
きっと10年後の自分など、そう何度も見たいものではないのだろう。

またよろしくお願いします。
黒子はイケメン客に金と伝票を渡すと、頭を下げた。
売値より買取価格の方が安いから、これはこれで商売成立だ。
そしてまた別の客に売れば、1つの商品で何度でも稼げる。
これがこの店が儲けを出している理由の1つでもある。

いらっしゃいませ。
黒子はイケメン客と入れ替わりに入って来た客に声をかけた。
こうして黒子の店は見かけによらずしっかり繁盛しているのである。

*黒髪のイケメン客はセカコイのあの人です。
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