SuperDetective

オレ、絶対に探偵になりたいんです!
火神は熱い思いを訴えた。
すると面接官の男は「では明日、テストをしよう」と告げた。

火神はまだ子供の頃から、探偵小説が大好きだった。
シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポアロ、金田一耕助に明智小五郎。
最近なら薬で身体が小さくなった高校生探偵も、毎週チェックしている。
探偵ではないが紅茶が大好きな特命係の刑事とか、旅雑誌のルポライターもいい。

それが高じて、自分も探偵になりたいと思うようになった。
大学の同期は金融だの流通だのと、固い職種を選んで企業を回っている。
だが火神は探偵事務所、一択だ。
とりあえず業界最大手と言われる帝光調査事務所を訪れた。
さっそく応接室に通され、面接試験が行われた。

火神大我君、ね。
面接担当の男は、赤司と名乗った。
火神より10センチ以上背が低いのに、やたらと威圧感がある男だ。
彼の手元には、火神の今までの学歴と大学での成績などの資料がある。
中学までは、父の仕事の都合でアメリカにいた。
英会話はほぼ完ぺきであるのが、火神の強みだ。
オレ、絶対に探偵になりたいんです!
火神は熱い思いを訴えた。

では明日、テストをしよう。
ある男の行動確認をして欲しい。
時間は午後1時から5時までの4時間だ。
その間、またここへ来て、彼がどこで何をしたのかを教えてくれ。

赤司にそう言われて、火神は拍子抜けした。
この面接で、もっともっと探偵になりたいという熱い思いを語る気満々だったからだ。
何しろ英語力はあるけれど、成績はイマイチなのだ。
そこを補うためにも、とにかく言葉を尽くすつもりだった。
だが赤司は淡々と、火神に指示を続けた。

その男の顔写真は、君のスマホに送っておく。
彼は午後1時きっかりに、このビルの正面玄関を出る。
それを尾行してくれればいい。
1人で尾行するときの心得も、一緒にスマホに送っておく。
ちなみに彼は何も知らない。
ただ君のことも、尾行がつくこともね。

赤司は淡々と指示をすると「では明日」と締めくくって、席を立った。
火神も慌てて立ち上がり「よろしくお願いします」と頭を下げる。
すると赤司は軽く手を振り、応接室を出て行った。

そして翌日、火神は探偵事務所の正面玄関前で待っていた。
スマホで尾行する男の顔は確認している。
どこと言って特徴のない、どちらかというと影が薄い男だ。
赤司の予告通り午後1時きっかりに出てきた男は、ゆっくりと街を歩き出した。

彼の行動はごくごく普通だった。
まず書店に入ってゆっくりと散策した後、2冊の本を購入。
その後、その近くのファーストフード店に入った。
バニラシェイクを注文し、窓際の席で道行く人を眺めながら1時間かけてシェイクを飲んだ。
その後はゲームセンターで、1人で遊んでいた。
一昔前に流行ったダンスゲームを無表情でやっている姿は、妙にシュールだった。
最後に古書店に行き、また本を1冊購入した後、探偵事務所に戻った。

尾行は初心者にしては、順調に進んだと思う。
彼はゆっくりと歩いていたし、平日の午後はそれなりに人が多かった。
何度か角を曲がったり、本屋の書架の間に紛れて見失いかけたが、すぐに見つけられた。
火神は時折メモをとりながら、彼を追いかけ続けた。

そして時間になり、火神は再び探偵事務所の応接室を訪れた。
すると昨日面接した赤司が待っていた。
半日追いかけ続けた男も一緒だ。

残念だが、君は不合格だ。
あっさりとそう言い渡された火神は「ハァァ!?」と声をあげる。
そして今日、火神が半日追いかけていた影が薄い男は、無表情のまま火神を見ていた。
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