バスケ戦隊キセキレンジャー

★第1話「ブラック誕生」★

今日から君は、ボクらバスケ戦隊の一員だ。
それを聞かされたボクは「へ?」と間の抜けた声を上げた。
後々思い出すと、ボクらしくないリアクションだったと思う。
だけどその時は、そんなことを気にする余裕はなかった。

帝光中学校バスケットボール部。
部員数は100を超え、全中3連覇を誇る超強豪校。
ボク、黒子テツヤは、この帝光中バスケ部の一員だ。
最初は三軍からのスタート。
試合に出るどころか、一軍に上がるのさえ、気が遠くなるほど遠い。
でも頑張って、さまざまな試行錯誤と紆余曲折の末、ようやく一軍に上がれたんだ。

そして一軍初練習の日、ボクは赤司君に部室に残るように言い渡された。
はっきり言って、かなり緊張した。
一軍のハードな練習についていけなくて、結局吐いてしまったからだ。
もしかして「お前、やっぱり三軍に戻れ」なんて言われたら、どうしよう。
案の定、部活後に僕と対峙したのは赤司君と眼光鋭い4人の男だった。
そしてなぜか、女子マネージャーが1人残っている。

だからこそ、わかって欲しい。
やっと一軍入りしたその日に「バスケ戦隊の一員だ」なんて言われた時の、ボクの困惑を。
しかもその言葉を発した赤司君は、至極真面目な表情だ。
ボクは当然「どういう意味ですか?」と聞いた。

赤司君の説明によると、こうだ。
帝光中バスケ部の中には、部員さえ知らない秘密のチームがある。
一軍の中から数名、ある条件を満たした者だけが選ばれ、人知れず正義のために戦う。
現在のリーダーは赤司君で、青峰君、緑間君、紫原君、灰崎君、桃井さんがメンバー。
そのグループの名こそ「バスケ戦隊」なのだそうだ。
よくよく見るとボク以外で部室に残っているのは、まさにその6人だった。

はっきり言って、聞きたいことは山ほどあった。
名前から察するに、よくある「何とかレンジャー」ってやつなのだと思う。
でもそれって普通5人じゃない?6人いるんですけど。
んでもって、もしボクを入れたら7人。ハンパすぎる。

色だって微妙におかしい。
赤、青、緑、桃までは王道だけど、紫。。。まではまぁありか。
でも灰色はちょっとない。っていうか絶対ない。

まぁ論より証拠だ。ちょっと見ていてくれ。
赤司君がそう言って、パチンと指を鳴らす。
すると、赤司君も含めた6人がおもむろに自分のカバンを開けて、何かを取り出した。
それは制服とまったく同じデザインで、色だけが違うコスチュームだった。
よくよく見ると、全員が自分の名字と同じ色のものを持っている。
唖然とする僕など関係なく、彼らは手慣れた様子で着替えてしまった。
どうやらこれが「バスケ戦隊」のコスチュームらしい。
全員がそれぞれの色に着替え終えたところで横一列に並ぶと、6者6様の微妙な決めポーズ。

って、いやいやおかしい。
いったい誰と戦うつもりなんだか知らないけど、いつ着替えるの!?
敵と遭遇してから着替えてたら、ぜったいその間にヤラれるから!!

あの、まさかと思いますけど。
その「バスケ戦隊」とやらに入る条件って、まさか名字に色が入ってるとか言いませんよね?
ボクは一番気になることを聞いてみた。
すると赤司君は「そこまで理解しているとは、期待以上だ!」と楽しそうだ。
いや、そこは否定してほしかったんだけど。
恐る恐る他のメンバー(?)を見回すと、全員が諭すようにボクを見て、頷いている。

じゃあ、理解してもらったところで。桃井、頼む。
赤司君が桃井さんに指示を出す。
すると桃井さんが「じゃあ行きましょう!」とボクの手を引いて、歩き出した。
え、どこへ行くんですか?
訳も分からず、半ば引きずられながら、上ずった声で問いかける。

コスチュームの採寸です。でき上がったところで正式メンバーに任命されます。
桃井さんはもう何度も説明したらしい、もの慣れた口調でそう言った。
そのまま連れて行かされた先は、うちの制服を扱っている洋品店。
そこでボクは寸法を測られて、解放された。

あまりに現実離れした展開に、ボクは一番大切なことを聞き忘れた。
正義のために戦うって、いったい誰と?
だけどその後、赤司君にも他のメンバーにも、のたりくらりとかわされ続けて。
そして数日後、制服と同じデザインの黒いコスチュームが支給されて、ボクは「黒」になった。

この時、まだボクらは、まだただの「バスケ戦隊」だった。
もうしばらくすると「黄色」が加入して「灰色」が去ることになる。
ボクたちが「キセキレンジャー」と呼ばれるのは、その後のことだ。
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