やっぱり何だか面白くない

何か、違う。
紫原敦はバニラシェイクを飲んでいる黒子を盗み見ながら、そう思った。

秋田の高校に通う紫原だったが、ここ数日は東京にいた。
バスケ部の遠征だ。
1週間ほど滞在し、いくつかの強豪校と練習試合をする。

紫原にとって、この遠征は「めんどくさい」の一言に尽きる。
今回は中学時代のチームメイトがいる学校との試合はない。
日程が合わないということだが、手の内をあまり見せたくないというのが双方の思惑らしい。
つまり全力を出さなくても、勝てる相手ばかりなのだ。
こんな遠征に意味があるのか思ったが、それでも秋田の学校よりはレベルが高いので、成果はある。
少なくても「まさこちん」こと監督は、そう思っているようだ。

試合の合間の自由時間に、紫原は誠凛高校近くのMAJIバーガーにいた。
チームメイトの氷室辰也が「せっかくだからタイガに会っていく」と言い出したのだ。
まったく一時期は「兄弟をやめる」だの「指輪を捨てる」だの言ってたくせに。
今はすっかり元の兄弟分に戻って、しかもメル友になっているらしい。

「アツシも一緒に行こう」
氷室の誘いに、紫原は「ヤダ。ダルい」と答えた。
この遠征自体が面倒なのに、さらにこの上、あの暑苦しい火神の顔なんか見たくない。
だが氷室が「黒子君も誘ってみるから」と言われたので、気が変わった。
紫原は、あの真面目な顔をした少年の頭に手を置いて、髪をわしわしするのが好きなのだ。

かくして4人は再会を果たした。
だが残念ながら店は混んでいて、4人で同席するのは無理だった。
どうにか少し離れたところに、2人分の席を2か所確保する。
ごく自然に氷室と火神が一緒のテーブルに向かい、余った紫原と黒子がもう1つの席になった。

「紫原君、飲食店で持ち込みのお菓子を食べるのは、マナー違反ですよ。」
席に座るなり、まいう棒を取り出した紫原に、向かいの席に腰かけた黒子がそう告げる。
紫原は「え~?」と抗議の声を上げながら、黒子を見た。

「中学の頃は、そんなこと言わなかったじゃない。」
「今は赤司君がいないからです。」
確かに中学時代は、赤司によくそう注意された。
黒子は赤司の代理と言わんばかりに、目で紫原を威嚇している。
紫原は「わかった~」と、まいう棒をカバンにしまって、何か食べるものを買うために立ち上がった。

何か、違う。
昔の黒ちんは、オレの行動に文句なんかつけなかった。
紫原はバニラシェイクを飲んでいる黒子を盗み見ながら、そう思った。
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