骨董屋店主と緑色の少年

オレは都内某所で、骨董品の店を営んでいる。
こういうと大抵の人は「お若いのにすごいですね」とか「さぞかし目利きなんでしょう」と言う。
だけどそんなカッコいいもんじゃない。
大学を出たものの就職が決まらず、困っていた時に骨董屋をやってたじいさんが病気で亡くなった。
だから必然的に店を引き継いだのだけのことだ。

子供の頃から、じいさんの店には出入りしていた。
掃除が行き届いているけど、どこか埃っぽいような、時が止まっているような雰囲気。
薄暗い店内には、壺だの皿だと掛け軸だの、日常的にはあまり馴染みのない品物が並ぶ。
オレはそんな店内が好きだった。
子供の頃は一日中ここにいても全然飽きなかったし。

でも実際に自分が切り盛りするとなると、かなり勝手が違う。
昔は高価な美術品ばかりを選んで売り買いしていたらしいけど、今はそんな商売では成り立たない。
家具とか電化製品とか、もう何でも扱ってる。
もはや骨董店というよりは、リサイクルショップだな。
店に持ち込まれる品物は、ほとんどが二束三文のがらくただ。
売っても儲けにならないし、そもそもそんなに客も来ない。

なるほどオレの親父は「店は継がない」って言ったけど、理由はよくわかる。
オレはここ数年の帳簿を見ながら、ため息をついた。
毎月収支のプラマイはほとんどゼロ、つまり儲けがない状態だ。
たまに思い出したように高い品物が売れていて、じいさんはこれで何とか生計を立てていたらしい。

早まったかな、オレ。
今からでも店を継ぐのは辞退して、就職活動を続けた方がいいのかな。
だけどもう後には引けない。
じいさんが大事にしていた店を潰すのも、忍びないからな。

気を取り直して、さらに店を捜索したオレは、帳簿とは別のノートを1冊見つけた。
表紙にはじいさんの字で「おは朝占い」って書かれていた。
中身は日付と12星座の名前と、星座ごとになんかアイテムの名前が書かれている。
例えば「○月×日、かに座-信楽焼のたぬき」なんて感じで。
そしてところどころに蛍光マーカーで印がつけられていて、余白に補足的なメモが書かれている。
△△から入荷、××日販売って感じだ。

「おは朝占い」って、あの「おは朝」の占いコーナーのことだよな。
確かに星座ごとの運勢と、ラッキーアイテムってのを言ってた気がする。
つまり察するに、じいさんは「おは朝占い」をチェックして、商品を仕入れていた。
そしてそれはかに座のラッキーアイテムで、かなりの確率で仕入れたその日に売れている。
さらに驚くことに、この売り上げが結構な割合を占めていたのだ。
これはおそらく特定の顧客、お得意さんってことだろう。
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