黒子ゾーン

「よぉ、テツ」
青峰はズカズカと、他校の体育館に足を踏み入れる。
まさに今から練習を始めようとした黒子が「どうも」と応じた。

「どうしたんですか?いったい」
黒子は表情を変えないままに、首を傾げている。
確かにこれは珍事だ。
誠凛高校バスケ部に、あの青峰大輝が現れたのだから。
確かにウィンターカップは終わったばかりで、すこしのんびりとした時期ではある。
だが基本的にめんどくさがりな青峰が、わざわざ他校に出向くなんて。
黒子は例によって、無表情だ。
だが誠凛バスケ部の面々は、黒子の分まで驚いた表情を浮かべていた。

「いや、その。テツが昨日倒れて、大騒ぎだったって聞いて。」
流石の青峰も、部員たちの視線を浴びて、決まりが悪い。
だがやはり気になったのだ。
中学時代だって、黒子がへばってしまうことはたびたびあった。
だが昨日は病院に運ばれるほどの大事になったと聞いたのだ。

「情報、早いですね。桃井さんですか?」
「大丈夫なのかよ。」
「ええ。病院で点滴してもらいました。」
黒子が微かに笑ったのを見て、青峰はホッと胸をなで下ろした。
何だかんだ言っても、かつての相棒のことは気になるのだ。

「心配して来て下さったんですか?」
「あん?別に。近くに用事があっただけだ。」
たまたま部活の時間帯に、誠凛の近くで用事などとは、苦しい言い訳だ。
誠凛の部員たちはニヤニヤ笑いを浮かべている。
青峰はますます決まりが悪くなり、顔をしかめて舌打ちをした。
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