黒子っちとツーショット

「黒子っち、お久しぶりっス!」
体育館の扉を開けるなり、黄瀬は力いっぱい叫んだ。
だが当の黒子は無表情のまま「練習の邪魔です」とぶった切った。

黄瀬は誠凛高校に来ていた。
今回はバスケはまったく関係ないモデルの仕事だ。
誠凛高校はできて間もない新設校なので、他の学校に比べて綺麗なのだ。
だから今日はここで撮影をしようということになったらしい。
学校も宣伝になるからなのか、すんなりと撮影許可も下りたそうだ。

黄瀬としては、願ったりかなったりだ。
こうして仕事として、誠凛高校を訪ねることができるのだから。
本当は黒子と同じ、あの独特のラインが入った学ランを着てみたかった。
だが残念ながら、それは今回掲載する雑誌のコンセプトとは違うらしい。
濃紺のブレザースタイルの制服に身を包んで、いざ撮影。
その前のわずかな空き時間に、黄瀬は体育館にやって来たのだった。

「黒子っち、お久しぶりっス!」
体育館の扉を開けるなり、黄瀬は力いっぱい叫んだ。
だが当の黒子は無表情のまま「練習の邪魔です」とぶった切った。
驚かしたかったのだが、どうやら事前に撮影の話は知っていたらしい。
あまりにも冷たい反応に「黒子っち~~」とすがるような声が出てしまった。

せっかく撮影用に髪もセットし、メイクも整えている。
だからいつもと違う姿に「カッコいい」とか「ステキ」とか言って欲しかったのに。
口を尖らせて、文句を言おうとした黄瀬だったが、それはできなかった。
黄瀬を捜して、体育館まで追いかけて来た撮影スタッフが「黄瀬君!」と叫んだからだ。
その様子はただ事ではない。

「どうしたんっスか?」
「××君が、来られなくなっちゃったんだよ!」
若いスタッフがオロオロしている。
今回は黄瀬ともう1人、最近人気急上昇の若手モデルの2人で撮影するはずだった。
だがその彼が何かのアクシデントで、来られなくなってしまったのだという。
そうなると撮影プランの大幅変更、いや中止になる可能性が高い。

「あ、それなら」
黄瀬はそう言って、チラリと黒子を見た。
今回来るはずだった子は、どちらかと言えば中性的なイメージの子なのだ。
プロがメイクをして、髪や服を整えれば、代役ができるのではないかと思う。
黄瀬は黒子を指さして「彼ではどうっスか?」と言った。
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