黄瀬君攻略

「黒子っち、勝負っスよ。」
黄瀬は誠凛の選手たちの列の最後尾にいる黒子の背中に向かって、呟いた。
今日の試合はかなり分が悪い。
だけど絶対に諦めるつもりはなかった。

ウィンターカップが終わって、年が明けてまもなく。
海常高校と誠凛高校は、久しぶりの練習試合をすることになった。
場所は例によって、海常高校の体育館だ。

「Re-Start!って感じだよな!」
久し振りに顔を合わせた火神が、そう言った。
リスタート、つまり再出発。
思えば4月、お互い高校に入って初めての練習試合もこのカードだった。
しかも場所もこの体育館だ。
確かに否が応でも、また新たに始まるという気分になる。
火神の発音が無駄に綺麗なのが、少々癇に障ったが。

「ここからまたよろしくお願いします。」
黒子はあくまでも礼儀正しく、頭を下げて来た。
黄瀬は「こちらこそっス」っと笑顔で答えながら、黒子を見た。
どちらの選手もこの1年で、表情や体型などが少年から青年へと変化しつつある。
その中で黒子だけが外見は1年前とほとんど変わらない姿をしていた。

だけど黄瀬は知っている。
この小さな身体に秘めた素晴らしい能力、そして誰よりも強い勝利への執念。
それは「キセキの世代」を打ち破るほどのパワーがある。

何がよろしくっスか。勝つ気満々なくせに。
黄瀬はゾロゾロと用意された控室に向かう誠凛の部員を目で追っていた。
だが不意に彼らは足を止めて「ちわっ」と頭を下げている。
彼らの視線の先にいるのは、引退した3年生部員だった。
先頭にいるのは笠松で「今日は見させてもらうよ」と日向に声をかけている。
そろそろ受験の準備で忙しいのに、わざわざ見に来てくれたのだ。

「黒子っち、勝負っスよ。」
黄瀬は誠凛の選手たちの列の最後尾にいる黒子の背中に向かって、呟いた。
今日の試合はかなり分が悪い。
だけど絶対に諦めるつもりはなかった。
黄瀬は万全の準備をするために、身を翻して体育館に向かった。
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