代わりの黒
「みんな、頑張ってるな」
赤司がそう告げると、かつて「無冠の五将」と呼ばれた3人は頷く。
彼らは洛山バスケ部の練習を、高い位置から見下ろしていた。
ウィンターカップが終わって、多くの学校では3年生が去る。
だから全国の高校バスケ部は、熾烈な争いが繰り広げられている時期だ。
抜けた3年生の後のレギュラーポジションを狙って、全員が必死になる。
それはもちろん、洛山高校も例外ではない。
というか、むしろ過酷だろう。
今回空いたポジションはPF(パワーフォワード)だけ。
しかも残りの4人は「キセキの世代」と「無冠の五将」なのだ。
普通の選手は、到底歯が立つはずがない。
だからとにかく残り1つのポジション目指して、4人以外は必死だ。
中にはわざわざコンバートして、ここを狙っている部員もいる。
「誰があの人の後になるのかしら?」
オネエよろしく、そう告げたのは実渕だ。
赤司たちレギュラー4人は、体育館2階のギャラリー部分から練習を見下ろしていた。
最後のレギュラー枠に相応しいのは誰かを確認するためだ。
決定権はもちろん監督にあるのだが、彼ら4人の意見は重要視されている。
何しろ実際に一緒にコートに立つのだから、相性は重要なのだ。
「今回はあんなトリッキーな人じゃないんだよね?」
赤司に念を押すようにそう告げたのは、葉山。
すると根武谷も「うんうん」と頷く。
彼らが頭に思い浮かべているのは、3月に卒業していった3年生。
赤司が「新型の幻の6人目」と称した男だ。
「そうだな。あのスタイルは簡単に真似できない。そういう意味であの人はすごかった。」
赤司はそう答えながらも、目は練習中の選手を追っている。
主将として、PGとして、真剣に5人目に相応しい選手を捜しているのだろう。
そんな赤司の横顔を見ながら、実渕が「征ちゃんさぁ」と話しかけた。
「どうしてあの人を、レギュラーにしたの?」
それを聞いた赤司は、実渕を見た。
はっきり言って、今さらな質問だ。
引退、卒業した選手の話なんて、これからの洛山には必要ない。
だけど赤司は、わずかに小首を傾げて考える。
そしておもむろに、口を開いた。
「似ていたからかな。あと名前。」
赤司は簡潔に、そう答える。
似ていたから。その理由はかなり理解できた。
中学時代に赤司のチームにいた「幻の6人目」とあの人は、確かに似ていた。
顔立ちはどことなく似ている程度、身体つきは全然違う。
だが醸し出す雰囲気は、かなり似通っていた。
いや正確には似せていたというべきだろうか。
「似ているは、わかるけど」
赤司の答えに、葉山は思わず聞き返していた。
そう、似ているはわかるけど、名前とは。
実渕も根武谷もそこがわからず、身を乗り出して赤司の答えを待つ。
「代わりの黒が欲しかったんだ。」
赤司はそう答えて、ふっと笑みを漏らす。
ウィンターカップの決勝以来、人当たりがよくなった赤司は、以前よりも笑うようになった。
だがこんな幸せそうな笑みは初めてだ。
一瞬その笑みに見惚れた3人だったが、すぐに「マジで!?」と声を上げていた。
代わりの黒。だから黛。
あまりにも単純な理由に、全員が脱力する。
だけど同時に、背筋が寒くなる思いだ。
名前と雰囲気が似た男を、代わりにする。
そんなにもかつてのチームメイトに惹かれていたのかと。
「征ちゃんって。。。」
実渕はそう言いかけたが、口を噤んでしまう。
葉山も根武谷も何となく黙り込み、3人はアイコンタクトで確認した。
この問題はもうこれ以上、掘らない方がいい。
【終】
赤司がそう告げると、かつて「無冠の五将」と呼ばれた3人は頷く。
彼らは洛山バスケ部の練習を、高い位置から見下ろしていた。
ウィンターカップが終わって、多くの学校では3年生が去る。
だから全国の高校バスケ部は、熾烈な争いが繰り広げられている時期だ。
抜けた3年生の後のレギュラーポジションを狙って、全員が必死になる。
それはもちろん、洛山高校も例外ではない。
というか、むしろ過酷だろう。
今回空いたポジションはPF(パワーフォワード)だけ。
しかも残りの4人は「キセキの世代」と「無冠の五将」なのだ。
普通の選手は、到底歯が立つはずがない。
だからとにかく残り1つのポジション目指して、4人以外は必死だ。
中にはわざわざコンバートして、ここを狙っている部員もいる。
「誰があの人の後になるのかしら?」
オネエよろしく、そう告げたのは実渕だ。
赤司たちレギュラー4人は、体育館2階のギャラリー部分から練習を見下ろしていた。
最後のレギュラー枠に相応しいのは誰かを確認するためだ。
決定権はもちろん監督にあるのだが、彼ら4人の意見は重要視されている。
何しろ実際に一緒にコートに立つのだから、相性は重要なのだ。
「今回はあんなトリッキーな人じゃないんだよね?」
赤司に念を押すようにそう告げたのは、葉山。
すると根武谷も「うんうん」と頷く。
彼らが頭に思い浮かべているのは、3月に卒業していった3年生。
赤司が「新型の幻の6人目」と称した男だ。
「そうだな。あのスタイルは簡単に真似できない。そういう意味であの人はすごかった。」
赤司はそう答えながらも、目は練習中の選手を追っている。
主将として、PGとして、真剣に5人目に相応しい選手を捜しているのだろう。
そんな赤司の横顔を見ながら、実渕が「征ちゃんさぁ」と話しかけた。
「どうしてあの人を、レギュラーにしたの?」
それを聞いた赤司は、実渕を見た。
はっきり言って、今さらな質問だ。
引退、卒業した選手の話なんて、これからの洛山には必要ない。
だけど赤司は、わずかに小首を傾げて考える。
そしておもむろに、口を開いた。
「似ていたからかな。あと名前。」
赤司は簡潔に、そう答える。
似ていたから。その理由はかなり理解できた。
中学時代に赤司のチームにいた「幻の6人目」とあの人は、確かに似ていた。
顔立ちはどことなく似ている程度、身体つきは全然違う。
だが醸し出す雰囲気は、かなり似通っていた。
いや正確には似せていたというべきだろうか。
「似ているは、わかるけど」
赤司の答えに、葉山は思わず聞き返していた。
そう、似ているはわかるけど、名前とは。
実渕も根武谷もそこがわからず、身を乗り出して赤司の答えを待つ。
「代わりの黒が欲しかったんだ。」
赤司はそう答えて、ふっと笑みを漏らす。
ウィンターカップの決勝以来、人当たりがよくなった赤司は、以前よりも笑うようになった。
だがこんな幸せそうな笑みは初めてだ。
一瞬その笑みに見惚れた3人だったが、すぐに「マジで!?」と声を上げていた。
代わりの黒。だから黛。
あまりにも単純な理由に、全員が脱力する。
だけど同時に、背筋が寒くなる思いだ。
名前と雰囲気が似た男を、代わりにする。
そんなにもかつてのチームメイトに惹かれていたのかと。
「征ちゃんって。。。」
実渕はそう言いかけたが、口を噤んでしまう。
葉山も根武谷も何となく黙り込み、3人はアイコンタクトで確認した。
この問題はもうこれ以上、掘らない方がいい。
【終】
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