健康志向

「あれ?」
黒子テツヤは、2通のメールをほぼ同時に受け取った。
そして同じチームの2人から贈られた相反するメールに、困惑することになった。

「なに、これ~!?」
紫原は、届いた荷物を開けると、彼にしては大きな声を上げた。
それを聞きつけた氷室は「どうしたんだい?」と聞き返す。
そうしながら紫原が開けたばかりのダンボール箱に貼られている宅配伝票を見た。
あて先は「陽泉高校寮 紫原敦様」そして差出人は「黒子テツヤ」だ。

黒子から紫原宛には定期的に荷物が届く。
その中身は紫原の好物、スナック菓子だ。
秋田の、しかも学生寮で暮らす紫原は、買いに行く店が限定される。
しかも東京に比べると、やはり品揃えが少なかったりする。
だからときどき、東京の黒子に菓子を送ってくれるように頼んでいるのだ。

だが今回、荷物を開けた紫原は不思議そうに中を覗き込んでいる。
そんな様子につられるように、ダンボール箱を覗き込んだ氷室は一瞬絶句する。
だが次の瞬間「やるなぁ、黒子君」と声を立てて、笑った。

カボチャチップス、1日に必要なビタミン半分が摂れます。
ごぼうスナック、これだけで食物繊維5グラム含有。
まいう棒トマト味、トマト1個分のリコピンなどなど。
今回黒子が送ってきた菓子は、やたらと健康志向だったのだ。

「今回は何か、変」
紫原は文句を言いながらも、さっそくごぼうスナックを開けて、バリバリと食べている。
そして「思ったよりイケるかも」などと言い、案外ご満悦だ。
その様子を見た氷室はこっそりと笑いながら、携帯電話を取り出した。
メールを送る相手は、この健康志向なスナック菓子の差出人だ。

懸命な判断だった。ありがとう。
黒子はメールの文面を読んで、口元に笑みを浮かべた。
どうやら成功のようだ。

数日前、紫原から「また東京のお菓子を送って」とメールが来た。
するとその数分後に、氷室からメールが来たのだ。
内容は「最近、敦は少し体重が増えているから、お菓子を送らないで欲しい」だ。
まるで真逆の内容のメールを受け取った黒子は、困り、迷った。

確かに紫原の菓子の摂取量は、異常だ。
今は若いから、いくら食べても特に健康に問題はないらしい。
だがこのままあんな食生活を続けていたら、身体に悪いことは間違いない。
氷室の依頼に従って送らないことも考えたが、それはそれで何だか悪いような気がする。
だから今回は、健康志向なスナックをチョイスしたのだ。

どういたしまして。
黒子は短いメールを返信した。
そして紫原の食生活まで心配する氷室に、深く深く同情したのだった。

【終】
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