ボクの希望なんですが

さて、どうしたものか。
伊月は何も書き込んでいない用紙を前にして、考え込んでいた。

3年の夏、最後のインターハイが終わった。
本当にあっという間だったと思う。
残る大会は、最後のウィンターカップだけなのだが。
伊月はこのまま部活を続けるかどうか、迷っていた。

成績優秀なリコは、受験などしなくても、推薦で大学に行けるだろう。
木吉も同じ、しかも「無冠の五将」の1人だから、スポーツ推薦の話もあるらしい。
スポーツ推薦は日向もだ。
あの洛山に勝利し、全国制覇を成し遂げた誠凛の主将という肩書きは大きい。
兄弟の多い水戸部が早々に就職を決めたのは、家計に負担をかけないためだろう。
小金井と土田は伊月同様、進路を決めかねているが、部活を続けることは決めている。

だが伊月は迷っていた。
大学に進むつもりで入るし、バスケも続けたい。
ぜひとも進学したい大学もある。
だがそこは今の成績では少々苦しいのだ。
どうしても行きたければ、ここで高校のバスケは終わりにするのが正解だと思う。

野球部は明快、夏の大会が終われば引退。
バレーボール部は、夏のインターハイで終わりか、春高まで残るかは各自で選択するそうだ。
ではバスケ部はというと、実は誠凛には明確な決まりがない。
正確に言うなら、伊月たちより上の世代がいないから、前例がないのだ。
誰も言葉にしないまま、全員ウィンターカップまでやるものと思い込んでいる。

自分はここで引退する。
それを言えば、済む話なのだと思う。
みんな残念がってはくれるだろうが、引き留められはしないはずだ。
降旗もPGとして成長しているから、伊月がいなくても大丈夫だろう。
大学受験は、今後の人生さえ左右する。
バスケの大会1つ出場しなくても、きっと許してもらえると思う。

それでも思い切れないのは、高校最後の大会だからというだけではない。
2年間、気になっていた1人の後輩の存在だ。
彼とプレイできるのは、多分最後。
そう思うと、たかがバスケの大会1つと切り捨てられないのだ。
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