カッコよく助けたかったよ

ああ、食いにくい。
伊月は、豪華な食事を前にして、ガックリと肩を落としていた。

誠凛高校バスケ部の面々は、とある有名レストランにいた。
カントクのリコがここのお食事券を貰ったからだ。
4人まで入店可能のチケットが3枚、つまりバスケ部の人数と同じ12人分。
せっかくだから全員で食事をしようということになったのだが。

問題はそのチケットは1枚につき、必ず1名女性が入っているという条件がついていたことだ。
つまりリコ以外に2人、女子がいなければならない。
苦肉の策として、伊月と黒子が女装することになった。
そして当日、2人は本物の女であるリコが少なからず動揺するほどの仕上がりで現れた。

黒子と共に「女っぷり」を賞賛された後、レストランに入った。
テレビや雑誌などでも紹介されたことのあるオシャレな店だ。
しかもバイキング形式なので、食べ盛りの高校男子にはありがたい。
実は伊月も黒子も、入店の時に男とバレるのではないかとヒヤヒヤしていた。
だがものの見事にスルーだ。
女装を見破られるとすごく困るのだか、こうも簡単に女子と認識されるとそれはそれで複雑だった。

とにかく無事に入店を果たした彼らは、自分が好む料理を皿に盛り付け、席に着いた。
そしていざ、お食事タイムスタートだ。
火神は相変わらず山のように料理を盛り付け、肉食リスよろしくムシャムシャと食べる。
その他の面々も健啖な食欲で、何度か料理を取りに行った。

だが伊月は食べるペースが上がらず、未だに最初の皿と格闘していた。
伊月だって、この中では身体が小さい方だが、一応運動部の男子。
世間一般のレベルで見れば、それなりに食べる方だ。
それなのに箸が進まないのは、気にし過ぎているせいだ。
みんなと同じペースで食べてしまえば、男であることがバレてしまう。
とりあえず母や姉妹の食事の様子を思い出して、チマチマと食べてみる。
そうなるとどうしてもゆっくりになってしまうのだ。

ああ、食いにくい。
伊月は、豪華な食事を前にして、ガックリと肩を落としていた。
時間をかけても腹が満たされないのは、なかなかのフラストレーションだ。
そしてふと思いつく。
同じく女装させられている影の薄い後輩は、どうしているだろう。
伊月はこっそりと斜め前に座っている彼を盗み見る。
ロングヘアのウィッグをつけて薄くメイクをした黒子は、ごく自然に女の子のように食べていた。

そうか、黒子は元々小食で、こんな感じだった。
伊月はこっそりとため息をつくと、再び自分の皿と格闘し始めた。
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