彼をもっと見たい

綺麗な人。
それが黒子テツヤが初めて彼を見た時の第一印象だった。

中学時代、黒子は「キセキの世代」などと呼ばれた5人と一緒にいた。
彼らはあらゆる意味で人目を引いていた。
全員顔立ちは整っており、天才ゆえのオーラもあり、しかも長身。
中には現役の人気モデルなんていう強者もいた。
さらに凄いことは、他の4人もそのモデルと比べて、誰も見劣りしていないのだ。

今、黒子は少しだけ彼らを恨んでいる。
美的センスが完全に狂わされてしまったからだ。
ぶっちゃけると無駄にハードルが上がってしまったのだ。
多感な思春期を、意味なく目立つ5人に囲まれて過ごしたせいだと確信している。

その弊害は顕著に出ている。
2年何組の誰々はイケメンだとか、ミス誠凛は1年何組のナニちゃんだとか。
そんな話を聞いて、その人物を見ても「ふうん」と思うだけなのだ。
今はバスケだけに集中したいし、どうでもいいことではある。
だが将来恋愛をするかもと思うと、ちょっと不安だ。
この歪んだ美的感覚で大丈夫なのだろうかと。

誠凛高校バスケ部の面々を見た時、そういう意味ではホッとした。
多少の差はあっても、容姿はごくごく平均的。
優しい性格とバスケへの情熱で、暖かい雰囲気を醸し出す人たちばかりだったからだ。
意味なく変な目立ち方をする部員は、相棒になった火神くらいか。
だが今まであの5人を見てきた黒子には、火神1人など物の数ではない。
すっかり狂わされた美的センスを、高校生活で少しでも修正したいものだと思う。

そんな中で唯一、黒子が「綺麗な人」だと思ったのは、2年生のPGだ。
見た目は清楚、いわゆるクールビューティというのだろうか。
今までとにかく悪目立ちする外見に食傷気味だった黒子にとってはありがたかった。
彼はポジション上、相棒の火神を除けば一番視線を合わせる人物なのだ。
妙な自己主張がないのに美しい容姿は、ポイントが高い。

彼はその容姿に似合わずダジャレ好きで、しばしば部員たちを呆れさせている。
だけど黒子には関係がなかった。
個人的な会話などほとんどせず、ただ見るだけなのだから。
それにしつこいようだが、中学時代あの5人を見ていたのだ。
ダジャレごときで怯むような神経では、幻の6人目(シックスマン)は務まらない。
1/2ページ