息子さんをボクに下さい

「どうぞ、どうぞ。たくさん食べて」
祖母がニコニコしながら、勧めてくれたのはこの時期ならではの食べ物。
だけどそれは黒子は見慣れたものよりも、はるかに大きかった。

「今度、うちに遊びに来ないか?」
木吉が唐突にそんなことを言い出したのは、木吉が大学1年、黒子が高校3年の春のことだ。
ついこの間、木吉が高校を卒業して、2人が会う時間が格段に減った。
だが黒子は最後のインターハイ、そしてウィンターカップに向けて練習の日々。
そして進路を決めなければならないこともあり、とにかく忙しい。
寂しいと思っても会いに行く時間など作れず、メールや電話がせいぜいだ。

そんなある日、木吉から誘いがあったのだ。
うちに遊びに来ないかと。
祖父母に育てられたという木吉は、大学も自宅から通えるところを選んで進んだ。
つまり未だに祖父母と一緒に暮らしている。

誘われた黒子は、喜んで了承した。
木吉が生まれ育った家を見たいし、木吉を育てた祖父母にもぜひ会いたい。
何よりも久しぶりに木吉の顔を見るのが、嬉しくてたまらない。
だけどふと思う。
恋人の家族に会うってシチュエーションでするべきことって。
もしかして「息子さんをボクに下さい」とかって、言うべきなのだろうか。
黒子は妙にドキドキしながら、約束の日を迎えた。

「初めまして。黒子テツヤです。」
木吉宅を訪れた黒子は、出迎えてくれた木吉の祖父母に頭を下げた。
だが2人は「緊張しないで、楽しんでいってね」と笑った。
なるほど、木吉の口癖の「楽しんでこーぜ」はここから来ているのか。
そして日当たりのいい畳敷きの居間に案内される。
木吉の人柄そのままの暖かい家と祖父母に、黒子も自然と笑顔になった。

「どうぞ、どうぞ。たくさん食べて」
祖母がニコニコしながら、勧めてくれたのはこの時期ならではの食べ物。
だけどそれは黒子は見慣れたものよりも、はるかに大きかった。
出されたのは、木吉の祖母特製の柏餅だった。

「ありがとうございます。いただきます。」
黒子は柏餅を食べながら、チラリと木吉の祖母の手を見て、驚いた。
身長はいわゆるこの年代の平均的な身長だと思うし、身体は細身。
だけど手が大きいのだ。
なるほどこの手で作れば、大きな柏餅になるだろう。

「うちは代々手が大きいのよ。」
黒子の視線を読んだ祖母が、そう教えてくれる。
それはよく知っている。
その大きな手が、チームに貢献したのだから。

「子供の日ですね。」
黒子は柏餅を味わいながら、しみじみとそう言った。
折しも今はゴールデンウィークの最中、もうすぐ子供の日。
柏餅はそんな時節に合わせて、作ったものだろう。

「鉄平はこれが大好きだから毎年作るの。今年は黒子君も食べてくれてすごく嬉しい。」
「とても美味しいです。」
「ありがとう。曾孫にも作ってあげたいから、長生きしたいわ。」
木吉の祖母は屈託のない口調でそう言って、笑う。
だけどその言葉は、黒子の胸にグサリと突き刺さった。
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