たかが呼び方、されど呼び方

黒子と青峰は、昔付き合っていたんだろうか。
木吉は火神と連係プレーの確認をしている黒子を見ながら、そう思った。

黒子テツヤは誠凛高校では、全員から「黒子」と呼ばれている。
強いて言うなら、監督のリコだけは「黒子君」と呼ぶ。
だけど彼女は誰に対しても君付けだから、同じと考えていいだろう。

だが「キセキの世代」の連中ときたら、皆各々が決めたニックネームで黒子を呼ぶ。
赤司は「テツヤ」紫原は「黒ちん」緑間は「黒子」黄瀬は「黒子っち」青峰は「テツ」。
そもそも呼び名というのは、統一しておくものではなかろうか。
たった5人しかいないのに、5通りの呼び方があるなんておかしい。
どこか「キセキの世代」と呼ばれる彼らの傲慢さを感じてしまう。

だがよくよく考えると、1人だけ違うのだ。
赤司は全員を下の名前で呼ぶそうだし、紫原の「~ちん」や黄瀬の「っち」も定型。
緑間に至っては、ごくごくノーマルに名字を呼んでいるだけだ。
唯一青峰だけが、特別な呼び方で黒子を「テツ」と呼んでいる。
他の人間は緑間のように名字呼びしているのに、だ。

もしかして青峰にとって、黒子は特別だったのだろうか。
その想像は木吉にとって不愉快なものだった。
青峰は中学時代、黒子の「光」だったと聞いた。
黒子にとっても、青峰は特別だったのかもしれない。

こんな風に考えるほど、黒子に惹かれている。
たかが呼び方、されど呼び方。
こんな些細なことで妄想して、今は滅多に会うこともない青峰に嫉妬する。
ちなみに同じクラスで相棒で、いつも黒子の隣にいる火神になど嫉妬しまくりだ。

「鉄平、ちょっといい?練習メニューなんだけど」
物思いに耽りそうになった木吉だったが、ちょうど声をかけてきたリコの声で我に返った。
いけない。練習中だ。集中しなければ。
木吉は「何だ?リコ」と答えながら、リコの方に向き直った。
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