誠凛は違うさ

気に入らんな。
木吉鉄平は黒子とその周りに群がる生徒たちを見ながら、微かに顔をしかめた。

ウィンターカップが終わった後、誠凛高校に起こったある変化。
それはやたらに見学者が増えたことだ。
高校受験を目前にした中学3年生たちが、バスケ部の練習を見にやって来る。
東京や関東近郊だけではなく、わざわざ地方から出て来た者もいた。

理由は嫌というほどわかる。
誠凛はウィンターカップで華々しい戦績を残したが、その割に選手層は薄い。
何しろ総勢10名強、全員がベンチ入りできるほどなのだ。
洛山とか桐皇などに入学したら、なかなか一軍には上がれない。
かといって弱小校ではいきなりレギュラーになれても、今度はそうそう勝ち上がれない。
誠凛ならば即レギュラーで勝ち進めるかもしれないと思うのだろう。

彼らの相手は、木吉の仕事になった。
怪我の治療に目標を置くので、もう試合出場はしない。
だがバスケ部のために何かしたいとは思っている。
だから足に支障がない程度に、練習の手伝いをしながら身体を動かしている。
そして見学者の案内という雑用も進んで買って出た。

「この~木、何の木、気になる木~♪の木と。。。」
見学者たちにまず自己紹介するときには、以前黒子にしたときと同じ方法でする。
日向はあからさまに胡散臭い目で見るし、他の部員たちも呆れ顔だ。
だがこれでなかなか相手の度量を見極めるには、いい方法なのだ。
困り顔で他の部員に助けを求める者、バカにしたような無表情の者、怒りで顔を引きつらせる者。
その反応で相手の性格を推し量ることができる。

ちなみに黒子にこれをしたときには、表情1つ変えなかった。
かと言って無視するでもなく、いちいち「はい」と相槌を打っていたのだ。
突拍子もない自己紹介に惑わされず、冷静に木吉の本質を見極めようとしていた。
黒子の真意はわからないが、少なくてもあの時の木吉にはそう見えた。
そして木吉は、そんな黒子に好感を持ったのだ。
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