「後出しの権利」を持つ男

あの2人は、元々付き合ってたわけだし。
小金井の何気ない一言に、黒子はピタリと動きを止めた。

木吉は足のケガの治療のために、渡米してしまった。
黒子は見送りにも行かなかった。
寂しいけれど、今は黙って待つ。
一時はもう木吉はバスケは終わりだと覚悟を決めていたようだが、今は違う。
また同じコートに立つために頑張っている。
だから黒子もそれを信じて待とうと思っていた。
だがそんなとき、部室で先輩たちが話すのを耳にしてしまったのだ。

木吉、術後の経過、順調らしいな。
そう!そりゃよかった。誰に聞いたの?
カントク。木吉からメールが来たって。リハビリのメニューがきついってボヤいてるらしい。
そんなことまで、メールで?
相変わらず、仲がいいよな。

部活の前、部室で着替えている2年生たちの声が聞こえてくる。
他の1年生たちは、体育館でもうウォーミングアップを始めている。
黒子はテツヤ2号を散歩させていたので、1人遅れてこれから着替えだ。
2号を小脇に抱えたまま、部室のドアをノックをしてから入ろうと、手をドアにかざした途端。

あの2人は、元々付き合ってたわけだし。
小金井の何気ない一言に、黒子はピタリと動きを止めた。
あの2人。この場合はどう考えても木吉とリコのことだ。

これはあんまりよくない展開だ。
木吉と黒子が、現在「そんな関係」になりつつあることは、部員たちにも知られている。
今、黒子が部室に入ったら、気まずくなるだけだろう。
それに黒子も期せずして知らされた木吉の過去に、思いがけず動揺している。

黒子は気配を消すと、そっとその場を離れた。
とりあえず頭を整理して、落ち着いてから部活に向かうことにする。
黒子は誰もいない裏庭に向かうと、大きく深呼吸をした。
そんな黒子の気持ちを知ってか知らずか、2号は腕の中におとなしく収まっていた。
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