ハロウィンの夢

「ねぇねぇ、これ!みんなで食べようよ-!!」
練習後の部室に明るい声が響く。
声の主、小金井の手にはお徳用の袋に入ったクッキー菓子があった。

「そっか、ハロウィンだもんな。」
そんなことより早く帰ろうと言いかけた日向だったが、菓子のパッケージを見て止めた。
その菓子の銘柄は小金井のお気に入りで、よく食べているのを見かける。
だけどパッケージのデザインがいつもと違った。
オレンジと紫色、ハロウィン仕様の期間限定モノだ。

「22枚入りだって。1人1枚はあるし。」
小金井の無邪気な笑顔に、日向もたまにはいいかと思った。
日本一を目指して、練習に明け暮れる毎日なのだ。
たまにはこういう、ちょっとした息抜きを楽しんでもいいだろう。
部員たちは着替えを終えると、リコを部室に招き入れ、ごくごく簡単なハロウィンパーティとなった。

「やっぱりパンプキン味なんだ!」
「なんかテンション上がるな~♪」
クッキー菓子は1枚ずつ個別包装されており、それもまたハロウィンテイストだ。
派手な色合いの袋に描かれた、お化けカボチャのイラスト。
それだけで何だか楽しい気分になってくるから不思議だ。
部員たちは菓子を手に取り、パッケージを目で楽しんでから、中身を口に入れる。
甘味は疲れた身体に、心地よく染み渡った。

「あれ?1枚多い。誰か食べてないよね?」
小金井が残りの枚数を数えながら、首を傾げた。
誰も休んでいないはずなのに、残ったクッキーが多いのだ。
部員たちは辺りをキョロキョロと見回し、1人の部員がいないことに気付いた。
そして次の瞬間、その部員の名を叫んでいた。

「黒子だ!」
「どこに行ったんだよ!」
部室はにわかに騒がしくなり、1年生たちが遠慮がちに黒子のロッカーを開けた。
ツッコミところがないほど整頓されたロッカーには、着替えもカバンもない。

「・・・もう帰ったみたいです。」
「神出鬼没すぎるわ。まったく!」
降旗の報告に、リコが文句を言う。
黒子がいきなり消えたり、現れたりするのは、今に始まったことではない。
だが何度やられても慣れず、やはり驚いてしまう。

「火神、同じクラスだろ。黒子に渡しておいてくれよ。」
小金井がクッキー菓子を1つ、火神に差し出した。
火神は「ウス」と答えてそれを受け取ると、ポケットに放り込む。
残りの菓子は伊月が姉と妹にと2つ取り、残りは兄弟の多い水戸部が持ち帰ることになった。
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