早咲きの桜

「高校のバスケ部に入部届を出した日も咲いてたなぁ。」
火神が満開の桜を見上げながら、そう言った。
同じく桜を見上げていた黒子は「ああ、あの日ですね」と頷いた。

3月某日、黒子と火神は買い物に来ていた。
食材や日用品など、必要なものを買っての帰り道。
満開の桜並木に2人は思わず足を止めた。

「今年は暖かかったから、早いですね。」
黒子は美しく咲いた桜を見上げながら、そう言った。
だが火神が無反応な様子を見て、こっそりため息をつく。
家の近所にあり、もう何年もこの時期に満開になった桜並木を見ている。
だけどいつ頃咲くなんて、覚えていないのだろう。

「高校のバスケ部に入部届を出した日も咲いてたなぁ。」
火神もまた満開の桜を見上げながら、そう言った。
それは誠凛高校に入学したばかりの部活のオリエンテーション。
美しい桜の下で、火神は入部届を出した。

「ああ、あの日ですね」
黒子は少し思い出す顔になり、頷いた。
そして「火神君、喧嘩腰でした」と付け加える。
そう、あの日の火神は無駄に喧嘩腰だった。
先輩にタメ口、しかも案内役の小金井の首根っこを掴んでいた。
しかも「日本のバスケなんてどこも一緒」と暴言まで吐いている。

「言うなよ。それを!って、あれ?」
若き日の尖がった自分が恥ずかしい。
そう思った火神だったが、すぐに疑問が浮かんだ。
叩きつけるように入部届を置いたあの日のこと。
黒子はなんで知っているのか。

「お前、何で知ってる?」
「ボクもあのとき、あの場にいたので」
「あの場に?いやいなかっただろ!」
「いました。君とほぼ同時に入部届を出したんで」
「マジか」
「マジです。先輩たちは傍若無人な君に呆れて、ボクに気付かなかったみたいですが」

今さら発覚した驚きの事実。
火神がド派手に登場して、叩きつけるように入部届を出したあの時。
黒子は誰にも気づかれずないまま、入部届を置いていったのだ。

「真横にいたのに気づかないとは。君はやっぱりガサツですね。」
「お前の影が薄いからだろ」
「それは認めますけど、火神君のガサツも譲れません。」
「何でだよ!?」

2人は軽口を叩きあいながら、つかの間の花見を楽しむ。
だが黒子はふと思いつき、おもむろに口を開いた。

「桜並木を見て、入部届を出した日を思い出したって言いましたよね?」
「ああ。それがどうした?」
「うちの高校にあったのはソメイヨシノ。この桜並木は河津桜。違う種類です。」
「ハァ?どっちも桜だろ!?」
「そういうところがガサツなんですよ。」

シレっとそう言い切った黒子は、微妙にドヤ顔だ。
納得がいかない火神は仏頂面。
だけどそれ以上何も言うことはない。
満開の桜の下、2人はゆっくりと歩き出した。

【終】
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