これはこれでありかも

「穏やかな新年ですね。」
黒子はポツリとそう呟いた。
家主がいない静かな部屋で、黒子は勝手に寛いでいたのだ。

火神が渡米していったのは、数が月前のこと。
キセキの世代が再集結し、黒子と火神も加わって、アメリカチームと戦った。
その直後のことである。

黒子は火神を笑顔で送り出した。
火神の道は火神が決めるものであり、止める筋合いではない。
だけど恨みがましい気持ちがあるのも事実だった。
あのアメリカとの試合で、日本のレベルも低くないと証明できたと思う。
それなのにチームを捨てて、日本を出ていくのかと。
そんな思いを抱く黒子に、火神はさらに追い打ちをかけた。

「俺の家、たまに掃除してくれねぇか?」
火神の言葉に、黒子は唖然とした。
家とは、あのひとり暮らしのマンションだ。
誠凛高校のメンバーはときどき押しかけていた。
無駄に高そうな部屋に「金持ちのボンボン」と悪態をついたものだ。

その部屋が分譲なのか賃貸なのか、黒子は知らない。
ただ新たな住人に明け渡すことはしないそうだ。
日本に戻った時には、寝る場所も必要だから。
あっけらかんとそう言った火神に、黒子は殺意すら覚えた。
年に何回、日本に来るつもりか知らないが、そのためだけにキープ?
金持ちもそこまでくると、嫌味の域だ。

だが黒子は火神から合鍵を受け取った。
理由はたった1つ。
火神から「いない間は好きに使ってくいい」と言われたからだ。
そういうことなら、引き受けましょう。
それ以来黒子は週に一度、この部屋を訪れて、掃除をしている。
そして掃除のついでに、この部屋で読書を楽しんでいたのだ。
静かで清潔なこの部屋は、本を読むには良い環境なのだ。

そうこうしているうちに、年が変わった。
火神はこの年末年始は帰らないと言う。
それはラッキー。
黒子は大きなバックを抱えて、この部屋を訪れた。
持ち込んだのは、ずっと読みたかった本が数冊。
黒子はこの部屋で読書三昧の年末年始を過ごす予定だった。

さて。それじゃ。
大晦日の夜、黒子はソファに腰を下ろすと、本を開いた。
今日1日で、掃除は済ませた。
掃除機をかけて、あちこちを拭き、部屋の空気も入れ替えて。
後は好きなことをして、過ごすだけ。
そう思ったところで、予想外のことが起こった。
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