マスク
「ったく、信じらんねーし。」
火神は画面の向こうにひたすらグチった。
向こうの反応が薄いのは、織り込み済みだ。
新型ウィルスが日本のみならず、世界中で蔓延している。
火神も少なからずその影響を受けていた。
ちなみに高校を卒業した火神は、すぐに渡米した。
バスケの本場、アメリカでプレイを続けるためだ。
まずは大学リーグで頂点を目指すつもりだった。
だが新型ウィルスのせいで、春のトーナメントは中止になってしまった。
今は冬のカンファレンスシーズンに向けて頑張る時期。
だが練習にも神経をすり減らしていた。
とにかく感染したら、かなり厳しいことになる。
発症したらもちろんある程度の期間は練習ができない。
それどころかバスケが続けられるかどうかも怪しくなる。
なにしろ新型ウィルスは肺炎を引き起こすのだ。
バスケ選手にとっては命とさえ言える心肺機能が落ちたら、プレイどころではない。
「ったく、信じらんねーし。」
夜、自室でパソコンをたち上げた火神は、画面に向かって文句を言っていた。
もちろんパソコンに文句があるわけではない。
相手はネットでつながった、かつての相棒。
日本にいる黒子である。
「さっさと終わって欲しいのに。マスクで予防なんてヌルいよな。」
火神の文句は止まらない。
さっさとワクチンでも特効薬でも作って、気兼ねなくバスケができるようになってほしい。
だが今できることは、マスクの着用と手洗いや消毒等々。
火神には苦手なチマチマしたことばかりだ。
『差し当たってできることをするしかないですよ。』
画面の中の黒子は相変わらずだ。
無表情のまま、平坦な声で淡々と返してくる。
火神はそんな黒子に「マスクって本当に効果あるのか~?」とややからみ気味に聞いた。
まるで戒めのように顔を圧迫するマスク。
一応チームの方針なので普段から着用しているが、内心は不満だった。
こんな小さな布切れが何の効果があるのかと思ってしまうのだ。
『効果がないことはないと思いますよ。』
「でもよぉ」
『今はできることをするだけです。それにチームの指示なんでしょう?』
「そんなことはわかってるんだけど。」
ブチブチと文句を言いながら、火神は不思議と気持ちが落ち着くのを感じた。
正直言って、マスクをつけるのは大嫌いだ。
だけど政治家やメディアに出てくる医師より、黒子に言われると説得力がある。
今できることを頑張ろうという気になれるのだ。
『それじゃ火神君、この辺で』
「何だよ。まだいいじゃんか!」
『時差を考えてください。こちらは夕方です。』
「だから何?」
『ボクはちょうど夕食を食べるところだったんですよ。』
黒子の文句は至極真っ当だった。
火神は「そっか。わかった」と答えて、通信を切る。
そして心の中で黒子に感謝した。
こうやってグチを聞いてもらえることで、気持ちは結構軽くなるのだ。
火神は画面の向こうにひたすらグチった。
向こうの反応が薄いのは、織り込み済みだ。
新型ウィルスが日本のみならず、世界中で蔓延している。
火神も少なからずその影響を受けていた。
ちなみに高校を卒業した火神は、すぐに渡米した。
バスケの本場、アメリカでプレイを続けるためだ。
まずは大学リーグで頂点を目指すつもりだった。
だが新型ウィルスのせいで、春のトーナメントは中止になってしまった。
今は冬のカンファレンスシーズンに向けて頑張る時期。
だが練習にも神経をすり減らしていた。
とにかく感染したら、かなり厳しいことになる。
発症したらもちろんある程度の期間は練習ができない。
それどころかバスケが続けられるかどうかも怪しくなる。
なにしろ新型ウィルスは肺炎を引き起こすのだ。
バスケ選手にとっては命とさえ言える心肺機能が落ちたら、プレイどころではない。
「ったく、信じらんねーし。」
夜、自室でパソコンをたち上げた火神は、画面に向かって文句を言っていた。
もちろんパソコンに文句があるわけではない。
相手はネットでつながった、かつての相棒。
日本にいる黒子である。
「さっさと終わって欲しいのに。マスクで予防なんてヌルいよな。」
火神の文句は止まらない。
さっさとワクチンでも特効薬でも作って、気兼ねなくバスケができるようになってほしい。
だが今できることは、マスクの着用と手洗いや消毒等々。
火神には苦手なチマチマしたことばかりだ。
『差し当たってできることをするしかないですよ。』
画面の中の黒子は相変わらずだ。
無表情のまま、平坦な声で淡々と返してくる。
火神はそんな黒子に「マスクって本当に効果あるのか~?」とややからみ気味に聞いた。
まるで戒めのように顔を圧迫するマスク。
一応チームの方針なので普段から着用しているが、内心は不満だった。
こんな小さな布切れが何の効果があるのかと思ってしまうのだ。
『効果がないことはないと思いますよ。』
「でもよぉ」
『今はできることをするだけです。それにチームの指示なんでしょう?』
「そんなことはわかってるんだけど。」
ブチブチと文句を言いながら、火神は不思議と気持ちが落ち着くのを感じた。
正直言って、マスクをつけるのは大嫌いだ。
だけど政治家やメディアに出てくる医師より、黒子に言われると説得力がある。
今できることを頑張ろうという気になれるのだ。
『それじゃ火神君、この辺で』
「何だよ。まだいいじゃんか!」
『時差を考えてください。こちらは夕方です。』
「だから何?」
『ボクはちょうど夕食を食べるところだったんですよ。』
黒子の文句は至極真っ当だった。
火神は「そっか。わかった」と答えて、通信を切る。
そして心の中で黒子に感謝した。
こうやってグチを聞いてもらえることで、気持ちは結構軽くなるのだ。
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