なんの拷問だ

どうしてこんなにドキドキするんだ?
火神は目の前で寝ている少年を持て余していた。

火神大我の家は学校から近く、しかも広いマンションに独り暮らし。
そのことがバスケ部の部員たちに知られてから、時折部員たちが訪れる。
相手チームの試合を見て研究したり、作戦会議をする。
またテストの直前になると「バカガミ学力アップスペシャルチーム」が出張ってくる。

今回、部員たちが訪れたのは、後者の方だ。
定期テストが近く、部活動は停止期間。
そこで火神宅に部員たちが集まり、勉強している。
これには切なる事情がある。
赤点、補習などという事態になれば、部活に差し支える。
一番この危機に晒されているのは火神だ。
だからエースの不在を防ぐべく、部員たちは科目を分担して、勉強を教える。

さっきまで、もう数時間も黒子から国語の講義を受けた。
だが火神はどうしても国語が苦手で、同じ説明を何度もさせてしまう。
黒子は特に嫌な顔もせずに、何度でも教えてくれた。
そしてどうにか、今日の分の国語は終わった。
しばしの休憩の後、伊月が数学を見てくれることになっている。
だが今は2年生たちは食事に出ており、部屋にいるのは火神と黒子だけだった。

ったく、メンドくせーよ。
火神はボソリと文句を言った。
そんなことを言える筋合いではないことはわかっている。
補習や再テストなどで、時間を取られるのはまっぴらだ。
練習ができないくらいなら、勉強した方がマシだし、教えてくれる部員たちには感謝している。
だが勉強は好きではないので、自宅に軟禁状態で詰め込まれるのは愉快ではないのだ。
先輩たちがいない状況なのだから、少しくらいグチりたい。

だが黒子から返事はなかった。
黒子は床に横たわっており、スゥスゥと寝息が聞こえる。
どうやら疲れて、眠ってしまったらしい。
なんだグチも聞いてもらえないのか。
火神はため息をつきながら、黒子の横に腰を下ろした。
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