おせちテロリスト

ったく。ふざけるなよ、バカガミ。
黒子はいつもの無表情を保ちながら、心の中だけで罵倒した。
当の火神はまったく気にした様子もなく「美味かった」なんて言っている。

火神と付き合い始めて、何度目かの年末年始。
黒子は地味に忙しく過ごしていた。
恋人である火神は、例年通りひとり暮らしのマンションでのんびりと過ごすつもりだという。
離れて暮らす父親も仕事が忙しく、わざわざ年始に日程を合わせて会うようなことはしない。
時間がある時に会えばいいというのが火神家の流儀らしい。

だから黒子は毎年、火神のマンションと自分の実家を往復することになる。
黒子としては、元日はさすがに親と過ごすべきだと思っている。
だが火神とだって一緒に過ごしたい。
できれば2人でおせち料理をつまんで、初詣もしたい。
幸か不幸か、火神のマンションも黒子の実家も都内だ。
だから新年早々、慌ただしく動き回るのだ。

だが今年は普段と違うことをしようと思っていた。
火神のマンションで、スーパーで買ってきた蒲鉾やら伊達巻だのを2人で食べるのが恒例になっている。
だが今年は少し趣向を凝らすことにした。
筑前煮と雑煮くらいは、手作りしようと思い立ったのだ。
今までは筑前煮は暖めるだけのパック詰め、雑煮は真空パックの切り餅を焼いて、インスタントのお吸い物に浮かべるだけだ。

だがそろそろ少しはステップアップしておくのも悪くない。
何しろアメリカ暮らしが長い火神は、和食は苦手なのだ。
料理の腕は負けているけれど、ここは差を詰めるチャンスでもある。

だから黒子は31日のうちに、火神のマンションのキッチンに立った。
そして母親に教わった通りに、関東風の雑煮の汁と筑前煮を作る。
餅は少々高かったが、生のものを用意した。
これで明日はゆっくりと、少しはマシなおせちが食べられると思った。
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