本当に贅沢です

「本当にやるんですか!?」
黒子はかすかに眉を潜めながら、そう聞いた。
火神は「やるって言ったら、やる!」と宣言すると、カセットコンロに土鍋をセットした。

高校を卒業して、早数年。
黒子はもうバスケの道は断念してしまったが、火神はバリバリの現役選手だ。
あの「キセキの世代」に負けない才能を持つと言われ、近々NBA入りという話もある。
当然、人気も高い。
そしてバレンタインデーには、山のようなチョコレートが届くのだ。
直接渡されたもの、そして所属チームに届けられたもの。
人にあげられるものはあげてきたという。
それでも今、2人が一緒に暮らすマンションには大きなダンボール1つ分のチョコがある。

一方の黒子は、高校の頃と変わらない。
もらったチョコは3つだけ、母親と桃井、かつての監督、相田リコからだ。
黒子は特にそれに不満を感じてはいなかった。
毎年贈ってくれる3人の気持ちは嬉しい。
むしろ小食なので、3人からのチョコでも多すぎるくらいだ。

問題は火神がもらってくるチョコだった。
毎年、黒子も手伝って一生懸命食べるのだが、やはり飽きる。
やはりチョコレートは味が単調なのだ。
大食いの火神でさえ、そんなに量は食べられないようだ。

「今年は一気にたくさん食うぞ!」
今年のバレンタインデーも終わり、翌日2月15日。
火神はそう宣言すると、鍋を用意した。
カセットコンロに土鍋をセットし、湯を沸かす。
そしてその湯の中に、小さめの鍋を置いた。
さらにイチゴやバナナなどのフルーツや、バケットなどを一口大に切って皿に盛った。
2人きりの風変わりな鍋パーティの始まりだ。
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