今日のところはこれで許します
「その指輪って、本物のシルバーなんですか?」
黒子はふと思いついて、そう聞いた。
その指輪とはもちろん、火神が首から下げているあの指輪のことだ。
火神は週に一度、指輪をクリーニングする。
その方法は歯磨き粉で、指輪を擦るのだ。
使い古した歯ブラシで、傷をつけないように丁寧に。
大きな火神が背中を丸めて、ちまちまと指輪を磨く姿は滑稽だ。
だけど当人は至って真剣にやっている。
「まぁ純銀じゃねーだろうけどな。」
火神は指輪を磨きながら、黒子の問いに答えた。
そう、これはアメリカのストリートの道端で売っていた。
しかも子供でも買えるほど安価なものだ。
だが銀は金やプラチナなどに比べたら、高価なものではない。
きっと混ぜ物入りの銀だろうと、火神は考えている。
だけどこれは思い出の品物だから、実際の価値など大した問題ではないのだ。
「そうですか」
黒子はいつものように感情のこもらない声でそう言った。
表情もまったく変わらないので、火神は黙々と指輪を磨き続けている。
黒子はそんな火神の背中を見ながら、ひっそりとため息をついた。
黒子だって、暇じゃないのだ。
時間を作って、こうして火神のマンションに泊まりに来ている。
それなのに何も今、指輪の手入れをする必要はないではないか。
そもそも今、火神は黒子と付き合っているのだ。
何で他の男から贈られた指輪を、今も大事にしなければならないのか。
友情の証と言われればそれまでだが、何だか浮気されているような気分になるのだ。
「ボク、眠いんで、先に寝ます。」
黒子は火神に声をかけると、火神が「ええ!?」と焦った声を上げる。
本当は別に、眠くなんかない。単に拗ねているだけだ。
だけど表情にも声にも感情をこめないので、火神にはわからないだろう。
黒子は先にベットに入ると、さっさと布団をかぶってしまう。
するとすぐに火神が「待ってくれよ」と叫び、バタバタと慌ただしい音がする。
程なくして灯りが消され、火神が黒子の隣に滑り込んできた。
暗闇の中で、黒子はかすかに頬を緩めた。
少しだけ勝ったような気になれる。
だって火神は指輪磨きを切り上げて、黒子の隣に来てくれたのだから。
「とりあえず、今日のところはこれで許します。」
黒子がそう告げると、火神は「何?」と聞き返す。
だが黒子は素知らぬ振りで「何でもないです」と答えた。
2人の甘い夜は、これから始まる。
【終】
黒子はふと思いついて、そう聞いた。
その指輪とはもちろん、火神が首から下げているあの指輪のことだ。
火神は週に一度、指輪をクリーニングする。
その方法は歯磨き粉で、指輪を擦るのだ。
使い古した歯ブラシで、傷をつけないように丁寧に。
大きな火神が背中を丸めて、ちまちまと指輪を磨く姿は滑稽だ。
だけど当人は至って真剣にやっている。
「まぁ純銀じゃねーだろうけどな。」
火神は指輪を磨きながら、黒子の問いに答えた。
そう、これはアメリカのストリートの道端で売っていた。
しかも子供でも買えるほど安価なものだ。
だが銀は金やプラチナなどに比べたら、高価なものではない。
きっと混ぜ物入りの銀だろうと、火神は考えている。
だけどこれは思い出の品物だから、実際の価値など大した問題ではないのだ。
「そうですか」
黒子はいつものように感情のこもらない声でそう言った。
表情もまったく変わらないので、火神は黙々と指輪を磨き続けている。
黒子はそんな火神の背中を見ながら、ひっそりとため息をついた。
黒子だって、暇じゃないのだ。
時間を作って、こうして火神のマンションに泊まりに来ている。
それなのに何も今、指輪の手入れをする必要はないではないか。
そもそも今、火神は黒子と付き合っているのだ。
何で他の男から贈られた指輪を、今も大事にしなければならないのか。
友情の証と言われればそれまでだが、何だか浮気されているような気分になるのだ。
「ボク、眠いんで、先に寝ます。」
黒子は火神に声をかけると、火神が「ええ!?」と焦った声を上げる。
本当は別に、眠くなんかない。単に拗ねているだけだ。
だけど表情にも声にも感情をこめないので、火神にはわからないだろう。
黒子は先にベットに入ると、さっさと布団をかぶってしまう。
するとすぐに火神が「待ってくれよ」と叫び、バタバタと慌ただしい音がする。
程なくして灯りが消され、火神が黒子の隣に滑り込んできた。
暗闇の中で、黒子はかすかに頬を緩めた。
少しだけ勝ったような気になれる。
だって火神は指輪磨きを切り上げて、黒子の隣に来てくれたのだから。
「とりあえず、今日のところはこれで許します。」
黒子がそう告げると、火神は「何?」と聞き返す。
だが黒子は素知らぬ振りで「何でもないです」と答えた。
2人の甘い夜は、これから始まる。
【終】
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