悪あがき

届かなかった。
セナは呆然とその場に立ち竦む。
ヒル魔にコツンとヘルメットをノックされて、ようやく我に返った。

それは試合中の何のことはないプレイだった。
第4クォーターの後半、試合時間残り数分。
点差は3点ビハインドで、このタッチダウンを決めれば逆転する。
エンドゾーンまで少し遠いけど、不可能な距離とは思わなかった。

NFLプレイヤーになって数年。
このような状況は何度もあった。
そして何度も逆転のタッチダウンを決めてきた。
チームに劇的な逆転勝利をもたらすランニングバック、アイシールド21。
高校時代にその名を背負って、すでに10年以上過ぎた。

今回もそんな場面の1つだと思っていた。
クォーターバックのヒル魔のコールを聞く。
そしてハンドトスされたボールを持って、走り出した。
阻止しようと動く相手チームのディフェンスの動きも想定内。
間をすり抜けて、エンドゾーンを越えられるはずだった。

だがタッチダウン目前で、阻止された。
相手チームの若いラインバッカーがセナを捕らえたのだ。
そうなってしまうと、小柄なセナは弱い。
あと3ヤードのところで、止められてしまった。

結局チームは勝った。
その次のプレイで、もう1人のランニングバックがタッチダウンを決めたのだ。
セナがあと少しところまで到達できたからだ。
チームメイトたちは喜び、セナを称えてくれる。
声をかけてくれたり、肩を叩いてくれたり。
だけどセナはただ呆然とその場に立ち竦んでいた。

今までに何十回、何百回と経験した場面だ。
残り時間わずか、逆転のタッチダウンを託されたことは数知れない。
セナはそんな状況下で、驚異的な得点率を叩きだしてきた。
きわどい場面、イチかバチか。
そんな状況でも何度も奇跡を生み出してきた。

だけど確実に「イケる!」と思って、止められた経験は案外少ない。
高校時代こそ、強いライバルに何度もやられていた。
だけどプロになってからはほぼない。
自力で点をとれるかどうかは、走り出してすぐにわかった。
だから無理だと思ったときは、少しでも距離を稼ぐランに切り替えていた。

だからショックだったのだ。
確実に決められると思ったのに、しっかり止められたことが。
ここ最近、脚力が落ち始めていることは感じていた。
もうプレイヤーとしてはピークを過ぎかけていることも。
そして今、それをはっきりと思い知らされた。

「試合終了だぞ?」
ヒル魔にコツンとヘルメットをノックされて、ようやく我に返った。
セナは「すみません」とあやまりながら、ヘルメットを外す。
そして小さくため息をつくと、ベンチに引き上げるヒル魔の後を追った。
1/2ページ