異国の正月

「美味しくなかったですか!?」
ヒル魔の表情を見たセナが、慌てて詰め寄る。
渾身の力作ではあるが、正直自信はない。
‏ヒル魔の口にあうかどうか、心配で仕方なかった。

NFLプレイヤーとなり、初めて迎える新年。
セナは大いに悩んでいた。
今まで何度も一緒に年を越したし、おせち料理も2人で食べた。
だから今年もそうするつもりだった。
ここはアメリカ、だからこそ日本の風習を大事にしたい。
2人で季節を感じながら、新年を迎えたかった。

だけど肝心のおせち料理が手に入らない。
日本の食材は、スーパーや専門店でわりと手に入る。
だけどおせちはむずかしかった。
いや実際、不可能ではないのだ。
通販や宅配が発達した今日、取り寄せはできる。
だけど日本のおせち料理と同じ内容で、価格は桁が変わる。
払えない額ではないが、生粋の庶民であるセナにはここで散財する度胸はなかった。

そこからセナはネットを駆使して、奮闘した。
まぁまぁお手頃価格で手に入る食材で、自作する。
料理はそこそこできるようになったが、おせちは初めてだ。
お煮しめや雑煮程度は作ったが、あとは買って済ませていた。
だけど異国の地では、簡単にはいかない。
それならあるもので何とかするまでだ。
だから年末の最後の数日、セナは食材を集め、キッチンに籠っていた。

そして迎えた、元日の朝。
テーブルには、今までよりかなり品数が少ない正月料理が並んだ。
かまぼこと伊達巻、お煮しめと雑煮だ。
シンプルなそれに、ヒル魔は目を丸くしている。
だがセナは潔く「今年はこれが限界でした!」と試合後の挨拶のように頭を下げていた。

「いや。別に責めてねぇし」
ヒル魔は素っ気なく応じて、席についた。
セナも「あはは」と笑いながら、向かい合って座る。
そして2人で「いただきます」と手を合わせ、箸をとった。

ヒル魔がまず箸を伸ばしたのは、伊達巻だった。
やや大きめの一切れをパクリと口に入れる。
だけどヒル魔は無言で咀嚼しながら、首を傾げていた。

「美味しくなかったですか!?」
ヒル魔の表情を見たセナが、慌てて詰め寄る。
するとヒル魔は「いや」と首を振った。
卵から手作りしたそれは、ヒル魔の好みに合わせたものだ。
甘みはほとんどなく、代わりに出汁の風味がする。

「これ、伊達巻か?」
ヒル魔は実に素直に感想を述べた。
何気に亭主関白(?)なヒル魔は、正直だ。
良くも悪くもセナの手料理に必ず嘘のない感想を言う。
そんなヒル魔の忌憚なき意見に、セナは「ですよね~」と肩を落とした。
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