進清十郎の進化
『小早川瀬那か?』
電話の向こうから、渋い重低音の声がする。
聞きようによっては、女性が喜びそうなイケボ。
だけどセナはそんなことを思う余裕もなく「何やったんですか!?」と叫んだ。
『進と連絡がつかないんだ。』
セナにそんな電話をかけてきたのは、高見伊知郎。
高校時代の好敵手、王城の主将だった男だ。
現在はアメフトをやめ、日本で医師となって活躍している。
「え?どういうことです?」
セナは首を傾げながら、聞き返した。
何だか行方不明みたいな言い方だけど、セナにとっては「?」である。
ヒル魔やセナ同様、進もNFLでプレイしていて、普通に試合に出ているからだ。
だが高見の真剣な口調から、本当に困っているのが伝わってきた。
進に何度電話をかけても、繋がらないのだそうだ。
そこで所属チームに問い合わせたが「答えられない」と言われたそうだ。
個人情報保護というヤツだ。
進の知り合いと名乗ったところで、簡単に信用してもらえないのだ。
途方に暮れ、セナに助けを求めてきたのだ。
進同様、アメリカでアメフト選手として知名度のあるセナなら何とかなるのではないかと。
「わかりました。やってみます。」
セナはそう答えて、電話を切った。
そしてすぐさま自分の所属チームに連絡を入れる。
スタッフに頼んで、進の所属チームに伝言を頼むのだ。
これなら何とかなるだろう。
そしてそこから2時間後、セナのスマホに電話がかかってきた。
『小早川瀬那か?』
聞き覚えのある冷静な声に、セナは「何やったんですか!?」と叫んだ。
連絡がつかなくて、日本ではかなり焦っていたように思う。
だけど当の本人は至って普通だったのだ。
「すぐに高見さんに連絡してください。心配してましたよ。」
『そうか。』
「何で連絡がつかなかったんですか?」
『スマホが壊れてしまったからだ。』
「落としちゃったんですか?」
『いや。うっかりして折ってしまった。』
そうですかと言いかけたセナは「へ?」と声を上げた。
2つ折りのガラケーならともかくスマホを折った?
あり得ない。
いやもしかして極薄の機種だったのでは?
セナは恐る恐る「進さんのスマホの機種って」と聞いてみる。
だが進は『アイフォンだが』と答えた。
型番もセナが持っているのと同じ、ごくごく普通のスマホだった。
『日本に電話する。手間をかけて悪かったな。』
進はそう言って、唐突に電話を切った。
セナはその後、しばし呆然とした。
元々進が機械系をよく壊す話は聞いていた。
偵察用のビデオカメラや、ベストイレブンに選ばれたときの商品のパソコンとか。
だけどスマホを折るなんて、怖すぎる。
「今度試合で当たるときは、気を付けよう。」
セナはボソリとそう呟いた。
リーグが違うものの、お互い勝ち進めばどこかでマッチアップする。
そのときのことを想像して、少しだけ背筋が寒くなるセナだった。
【終】
電話の向こうから、渋い重低音の声がする。
聞きようによっては、女性が喜びそうなイケボ。
だけどセナはそんなことを思う余裕もなく「何やったんですか!?」と叫んだ。
『進と連絡がつかないんだ。』
セナにそんな電話をかけてきたのは、高見伊知郎。
高校時代の好敵手、王城の主将だった男だ。
現在はアメフトをやめ、日本で医師となって活躍している。
「え?どういうことです?」
セナは首を傾げながら、聞き返した。
何だか行方不明みたいな言い方だけど、セナにとっては「?」である。
ヒル魔やセナ同様、進もNFLでプレイしていて、普通に試合に出ているからだ。
だが高見の真剣な口調から、本当に困っているのが伝わってきた。
進に何度電話をかけても、繋がらないのだそうだ。
そこで所属チームに問い合わせたが「答えられない」と言われたそうだ。
個人情報保護というヤツだ。
進の知り合いと名乗ったところで、簡単に信用してもらえないのだ。
途方に暮れ、セナに助けを求めてきたのだ。
進同様、アメリカでアメフト選手として知名度のあるセナなら何とかなるのではないかと。
「わかりました。やってみます。」
セナはそう答えて、電話を切った。
そしてすぐさま自分の所属チームに連絡を入れる。
スタッフに頼んで、進の所属チームに伝言を頼むのだ。
これなら何とかなるだろう。
そしてそこから2時間後、セナのスマホに電話がかかってきた。
『小早川瀬那か?』
聞き覚えのある冷静な声に、セナは「何やったんですか!?」と叫んだ。
連絡がつかなくて、日本ではかなり焦っていたように思う。
だけど当の本人は至って普通だったのだ。
「すぐに高見さんに連絡してください。心配してましたよ。」
『そうか。』
「何で連絡がつかなかったんですか?」
『スマホが壊れてしまったからだ。』
「落としちゃったんですか?」
『いや。うっかりして折ってしまった。』
そうですかと言いかけたセナは「へ?」と声を上げた。
2つ折りのガラケーならともかくスマホを折った?
あり得ない。
いやもしかして極薄の機種だったのでは?
セナは恐る恐る「進さんのスマホの機種って」と聞いてみる。
だが進は『アイフォンだが』と答えた。
型番もセナが持っているのと同じ、ごくごく普通のスマホだった。
『日本に電話する。手間をかけて悪かったな。』
進はそう言って、唐突に電話を切った。
セナはその後、しばし呆然とした。
元々進が機械系をよく壊す話は聞いていた。
偵察用のビデオカメラや、ベストイレブンに選ばれたときの商品のパソコンとか。
だけどスマホを折るなんて、怖すぎる。
「今度試合で当たるときは、気を付けよう。」
セナはボソリとそう呟いた。
リーグが違うものの、お互い勝ち進めばどこかでマッチアップする。
そのときのことを想像して、少しだけ背筋が寒くなるセナだった。
【終】
1/1ページ