警備員さんと小さな少年

俺は母校の制服を着た小さな少年に思わず顔が綻んだ。

高校を卒業した俺は警備会社に就職した。
初めての仕事が母校の近くの商店街の「春の商工会まつり」の警備だ。
深緑色のジャケットの生徒たちをみると懐かしい。ついこの前まで俺も着ていたのにな。
その俺の視界に細い路地から飛び出してきた小さな少年が目に止まった。
1年生ってのは不思議とわかるもんだ。初々しいからか、制服を着慣れてないって感じだからか。
ダブダブの上着。きっとすぐ背がのびるから、なんて願いがこもってんのかな。かわいい。

だがその少年の挙動は不審だった。
辺りをキョロキョロと見回し、おろおろ、あたふたと足踏み。
警備員の俺としては、放っておけない怪しさだ。
ただ初仕事があんな小さい子に注意するってのもなんだかなぁ。。。
俺の迷いは短時間で終わった。
次の瞬間、少年は思わず鳥肌が立つほどの鮮やかなダッシュで走り出したのだ。
そして俺のいる方、人ごみの中に飛び込んできた。


少年はかなり混雑している人波をすり抜けて走っていく。
すげぇな。人にぶつからず、スピードも落ちない。感動モノなのだが。
見事な走りではあるが、やはり警備員の見解としては危険だ。
本来ならば捕まえて叱責の1つもしなければならない。
だが俺はすぐに職務放棄した。あんなの捕まえられるわけがないからだ。
せめてもの抵抗で、そこのキミ、止まりなさい!と叫んだ。
少年は俺にすみませ~んと答えたが、足が止まることはなかった。

少年が走っている理由はすぐに知れた。
見るからに不良という感じの2人が追いかけてきていたからだ。
イジメってやつか?あんな小さい子を2人がかりで苛めるってのはよくないだろ。
しかもこの2人は道行く人にぶち当たりながらドカドカと走っている。
これは警備員として、そして泥門高校OBとしても見逃せないぞ。
俺はこの2人を追跡し始めた。


追いかけてみると2人組もまぁまぁ足が速かった。なかなか追いつけない。
遅く見えたのはあの少年が早すぎたからだったのだ。
それとも。もしかして歳ってやつか?それは認めたくはないが。
とにかく息が上がった俺はようやく駅前で連中を見つけた。
小さな少年は姿を消していた。多分、電車に乗ったのだろう。
2人と思っていたのは実は3人だった。もう1人は待ち伏せしていたのかもしれない。

そしてその3人組は。大変なことになっていた。
同じく俺の母校の制服を着た奇抜な格好の生徒に捕獲されていたのだ。
逆立てた金髪、両耳に二連のピアスをした長身の生徒。
3人組は縄でグルグル巻きに縛られ、縄尻をその金髪の生徒に引かれて連行されていた。
おい、と俺は金髪の生徒に声をかけた。すると金髪の生徒が俺を見て言った。
すみませんね。警備員さんにご迷惑かけて。先輩として俺がきつく説教しますから~♪
にこやかに笑う金髪の生徒に俺はなぜか寒気がした。。。


秋になって俺は東京近郊のとある営業所の警備の助っ人に行かされた。
場所が変わってもすることは同じ。相変わらず立ち続ける仕事だ。
そこへ。数台のバイクがものすごい爆音と共に走ってくるのが見えた。
スピードオーバー、ノーヘル。
しかも他の自動車をジャンプ台にして飛んだりしている。

先頭を切っているのは、ありゃあ賊学の制服だろうか?
しかも後ろには小さい子供を乗せている。
子供が着ているのは何かのユニフォームか?21番。
何ともアンバランスな暴走族だった。
後ろの小さい子供がヒィィィ死ぬー!と叫んでいる。
運転している男が試合に間にあわねーのと死ぬのとどっちがいい?などと聞いている。


どっちもダメなんじゃねぇの?と俺は心の中で突っ込んだ。
警備員としては見過ごしてはいけない光景だが、あんなの捕まえられるわけがない。
せめてもの抵抗で、おい、危ねぇじゃねぇか!と叫んだ。
後ろの小さな子供が俺にすみませ~んと叫び返してきた。
ん?今の声はどこかで聞いたような気がするが。思い出せない。

しばらくして休憩の時間になった。俺と交代で警備する先輩にその場を引き継ぐ。
先輩がそういえば、といいながら俺に聞いてきた。
オマエ、泥門高校だったよな。今年の泥門、アメフト部が強いんだって?
アメフト部?そういえば去年1年生が3人で作って、勧誘とかやってたような。。。
はっきり言ってそれ以上の記憶がない。でも俺は先輩に笑って答えた。
泥門生は根性ありますから、きっとイイ線いきますよ。
案外優勝しちゃうかもしれないっスよ。

【終】
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