スーパーボウル前夜

「まったくもう、何がなんだか」
セナは大きなため息と共に呟く。
ヒル魔はそんなセナを見ながら「ボケてんじゃねぇぞ」と苦笑した。

明日はスーパーボウル。
アメリカンフットボールの最高峰、NFLの優勝決定戦だ。
その前夜、セナはスタジアム近くのホテルにいた。
明日はついに夢にまで見た最後のステージに上がる。
最高の舞台で最高のプレイで、ナンバーワンを勝ち取るために。

その傍らにはヒル魔もいた。
高校からアメフト部に入り、大学、Xリーグを経由してNFL。
10数年にわたるアメフト人生の最後、セナとヒル魔は同じチームにいる。
かつてクリスマスボウルを一緒に制覇した彼と共に、再び頂点を目指せるのだ。
これは運命であり奇跡だと、セナは思う。

ちなみにここはヒル魔の部屋である。
チームは全選手に部屋を用意してくれている。
だがヒル魔は自腹で、最上階のスィートルームに滞在していた。
スーパーボウルのおかげで、スタジアム周辺のホテルは満杯状態で、値段も跳ね上がっている。
そんな状態でよくもそんな贅沢をと思わないでもない。
だけどそこがヒル魔だと思えば、すんなり納得できてしまう。

セナは大きな窓から夜景を見下ろしながら、ため息をついていた。
そして「まったくもう、何がなんだか」と呟く。
それもそのはず、先程までマスコミの取材を受けていたのだ。
日本人初のスーパーボウル出場。
しかもかつてクリスマスボウルを制した2人なのだ。
どうやら日本ではそれなりに話題にもなっているらしい。

「ボケてんじゃねぇぞ。」
ヒル魔はそんなセナに、苦笑交じりにツッコミを入れた。
だが気持ちはよくわかる。
高校、大学、Xリーグの頃は勝つたびに騒がれてはいた。
だがNFL入りを最後に、すっかり話題に上らなくなっていたのだ。
その上、最近日本ではNFLの試合をテレビでは放送していない。
だからヒル魔もセナもすっかり忘れ去られていたはずだ。
それが今になって、取材が殺到している状態なのだ。
手のひら返しのような扱いに、少々ウンザリしているのは事実である。
1/2ページ