運命共同体

「運命共同体ってヤツじゃない?」
セナは申し訳なさそうな笑顔でそう言った。
童顔な彼には今1つ似合わない重い言葉だが、ツッコミは入らなかった。

とある放課後、泥門デビルバッツの部室。
授業を終えた1年生部員たちは集まり、練習着に着替えていた。
先輩部員たちの姿はない。
授業が違うので、そんなのは別に珍しいことではなかった。

同学年だけの気安い雰囲気。
いつもは軽口を叩きながら、賑やかに着替える。
だけどこの日の空気は重かった。
誰とはなしに「ニュース見た?」「D大の?」などと言い出したからだ。
大学アメフトでそこそこ有名なチームの選手が事件を起こした。
数名の部員が泥酔した女性に暴力を振るったのだ。

「許せないだろ!女性にひどいことをするなんて!」
真っ先に憤慨したのは、モン太だった。
瀧と小結が当然と言わんばかりに「うんうん」と何度も頷く。
黒木がそんなわかりやすい3人に「そこは否定する要素ねぇな」とまとめた。

「アメフト部は大変そうだ。大会出場辞退に無期限活動停止。」
「ああ。無関係な部員はかわいそうだよな。」

十文字と戸叶が顔を見合わせて、そう言った。
ハァハァ三兄弟こと元不良3人組が気にするのは、そこだった。
実は彼らは入部前、アメフト部をトラブルに巻き込んで出場辞退にしてやろうと考えた前科がある。
もちろん未遂にすらならなかったし、今は真面目なアメフト部員。
だけどやはり思うところがあるらしい。

「でもそんな悪いヤツら、気付かず放置してたんだろ?同罪じゃんか!」
モン太はやはり怒っている。
セナは「それはどうかな?」と首を傾げた。

ニュースだけではわからないからだ。
他の部員たちは、問題を起こした彼らの所業を知っていたのか。
知っていて黙っていたか察していたのなら、確かに同罪なのかもしれない。
だけど何も知らないとしたら、気の毒すぎる。

「信じていた仲間に裏切られたなら、悲しいよね。」
「そうかぁ?信じてた仲間なら悪いヤツがどうかくらいわかっただろ?」
「そんなに単純な話じゃないと思うけど」
「むずかしい話じゃないだろ?」
「例えばうちのチームでも、全員のことを全部理解しているかな?」

セナとモン太は着替えをしながら、いつになく深刻に話し込んでいた。
元不良の三兄弟も、小結や瀧もそれを聞いている。
全員のことを全部理解しているか。
その問いに対して浮かぶのは、ここにはいない主将の顔だ。
逆立てた金髪に尖った耳、そして不敵な物言い。
見た目も所業も悪魔のような彼のことを、完全に理解しているかと問われれば「否」である。
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