よく寝てる。
セナはベットで眠っているヒル魔の顔を覗きこむと、そっと微笑した。

セナはベットサイドの時計を確認する。
朝の４時、もう深夜だか早朝だかわからない時間だ。
でも昼には仕事にでなければならないし、少しでも寝ておかなくては。
まったく次の誕生日で４０歳になる身としては、かなりきつい。

セナがアメフト選手を引退したのは、１０年前のことだ。
日本初のＮＦＬプレーヤーとして活躍し、怪我もなく選手生命を終えた。
３０歳まで最高峰でプレイできたのは、すごく幸せなことだと思っている。

その後は日本の社会人チームで５年ほどコーチをした。
さらに監督にならないかと誘われたりもしたが、それはことわった。
自分はそこまでの器ではないと思ったからだ。

そしてセナはスポーツジャーナリストに転身した。
元々は日本ではマイナーであるアメフトというスポーツを、もっとみんなに知って欲しいと思ったからだ。
だが予想外だったのは、選手時代以上に人気が出てしまったこと。
ついにはＮＦＬ番組の解説を務めることになり、毎週金曜日の深夜はテレビに生出演だ。
帰宅するのは、だいたいこの時間になる。

４０歳にして、夜更かしはとてもつらいのだ。
童顔のおかげで「年齢より若く見える」とか「全然昔と変わらない」なんて言われる。
だがやはり肌は衰えている。
体型だって一見ほとんど変わっていないように見えるが、うっすらと脂肪がついている。
筋肉が落ちたせいで目立たないだけだ。

ヒル魔との関係も変わった。
こうして一緒に暮らしているが、昔のように毎日身体を繋げるようなことはない。
そもそもお互いに仕事が忙しいので、寝る時間すら合わないのだ。
どちらかが遅い帰宅の時に、起きて待つこともない。
年齢のせいか体力も落ちており、寝不足になると翌日に差し支えるからだ。

それでも同じベットで眠ることだけは絶対に止めない。
例え言葉を交わさなくても、恋人の体温と匂いを感じて眠る。
もうドキドキすることはないけど、いつも暖かく心を満たしている。
２人の関係は、激しく熱い恋から優しく穏やかな愛に変わったのだと思う。

セナはヒル魔を起こさないように、そっとベットに滑り込んだ。
明け方まで働いた身体は、すぐに緩やかな眠りに堕ちていった。