痛み

スタジアムは一瞬、水を打ったように静まり返る。
だが審判が高らかにタッチダウンをコールすると、割れんばかりの大歓声が起こった。
試合終了まであと3秒のところで、セナが逆転のタッチダウンを決めたのだ。
ヒル魔はその瞬間を、スタンドで見ていた。

現在は甲子園ボウル、そしてライスボウルの出場を争う大学選手権の真っ最中。
順当に勝ち進んでいるヒル魔たち最京大学の面々は、ライバル校の試合の観戦に来ていた。
それがこのセナたちの炎馬大学の試合だ。
相手も強豪校であり、事前の予想はまさに五分五分だった。

最後の最後でタッチダウンを決めて、誰もが炎馬大学の勝利を確信した。
だがその立役者であるセナは、エンドゾーンに横たわったままいつまでも起き上がってこない。
興奮の大歓声は、困惑のざわめきに変わっていく。
どうやらセナは脳震盪を起こしたらしい。
ぐったりと動かないセナは担架に乗せられ、フィールドの外に運ばれていく。
代わりの選手がフィールドに入って、試合再開だ。
ヒル魔はスタンドから、その様子をジッと見ていた。

セナは高校のときよりは背も伸びたし、体重も増えた。
だがそれでも一般的な同年代の男子の中では小柄で、アメフト選手としては目立つほど小さい。
その分スピードは速いのが武器だが、危険も大きい。
接触すれば、セナの方が吹っ飛ばされる可能性が高いのだ。
そういうシーンを目の当たりにするたびに、ヒル魔は胸が痛む。

NFLの選手が神経疾患にかかる確率は、一般人の3倍に上るというデータがある。
脳震盪など脳に受けるダメージが蓄積され、後々深刻な病気を引き起こすということだろう。
さらにクォーターバックやランニングバックは、ラインの選手に比べると3倍だという。
先程のようなプレーは確実にセナの身体にダメージを与えている。
もしかしたらセナの寿命を縮めてしまっているのかもしれない。
1/2ページ