折り鶴

ヒル魔さん!もう諦めて折りましょうよ。
僕は何度も繰り返した台詞を、また口にした。

僕とヒル魔さんはそれぞれ違う大学に進んで、アメフトをしている。
いわばフィールドの上では敵同士だ。
だけどそれはシーズン中のこと。
こうしてアメフトのシーズンが終わった今は、ヒル魔さんのマンションに入り浸っている。

今日もいつも通り、ヒル魔さんの部屋に来ていた僕にまもり姉ちゃんから電話が来た。
実はヒル魔さんと同じ大学に進んだ十文字くんが、練習中に怪我をして入院している。
大した怪我じゃないし、シーズンオフだから試合には関係ないのが不幸中の幸いだ。
僕もお見舞いに行ったけど、すごく元気そうだった。
ちなみにヒル魔さんたち最京大学の部員たちは、全員で千羽鶴を作ることにしたらしい。
マネージャーのまもり姉ちゃんの号令の下、皆で鶴を折って、十文字くんの全快を祈るんだって。

みんな文句ばかり言って、なかなか折ってくれなくて。集めるのが大変だったわ。
まもり姉ちゃんは電話でそう言っていた。
あのクセ者揃いのメンバーに鶴を折らせるまもり姉ちゃんって、すごいよ。
そう言ったら、まもり姉ちゃんは電話口で大きくため息をついた。

後はヒル魔くんだけなんだけど、どうしても折ってくれないの。セナからも言ってくれない?
僕は「わかった」と答えて、電話を切った。
よくよく考えてみると、鶴を折るヒル魔さんって見たことがなかったなぁ。
ヒル魔さんって指が長いから、折り紙も絵になるんじゃないかな。
僕なんか手先があまり器用じゃないから、鶴を折ると頭や尻尾が歪んだりするんだけど。
ヒル魔さんはそういうの得意そうだよね。
色々考えていたら、何かすごく興味が沸いてきた!
そしてヒル魔さんへの「折ってください攻撃」を開始した。
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