Beautiful Name

名前を間違えられたわ!
部室に入ってきた鈴音は、挨拶もなしにそう叫んだ。

泥門デビルバッツは、そろそろ放課後の部活が始まる直前。
部員たちはおのおの部室で着替えて、グラウンドへと出て行く。
授業を終えた鈴音が、勢いよく飛び込んでくるのもこの時間。
セナの姿を見つけると、話しかけるのもいつものことだ。

また「すずね」って読まれたの。
鈴音は不満そうに口を尖らせながら、カジノテーブルの一角にドサリと腰を下ろした。
苦情を訴えられたセナは、ちょうど着替えを終えたばかりだった。
グラウンドに出ようとしていたセナは足を止め、鈴音の隣に座ると「大変だね」と苦笑した。

瀧鈴音の下の名前は「すずな」と読む。
だがフリガナが書かれていない場合、なかなか正しく読んでもらえない。
ほとんど「すずね」と読まれるか、まれに「りんね」と読まれるか。
どういう状況なのかは知らないが、今日もまた間違えて読まれてしまったらしい。

ほんとに親のセンスを疑うわ。どうして子供に正しく読めない名前をつけるの?
鈴音は鼻息荒く、そう続ける。
名字ならば、読み方が難しい名前でも仕方ないと思える。
だけど名前ならば、親の裁量でどうにでもなるではないか。
どうせなら誰もが一発で読める明快な名前にしてくれればいい。
いちいち間違えられて訂正するのはうっとうしいことこの上ない。
鈴音はいつもそう思っている。

わかる気もする。僕も自分の名前にはあまりいい思い出がないから。
セナのため息まじりの言葉に、鈴音が「え?」と聞き返した。
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