ボディガード

アルバイトを終えた小早川セナは、自宅アパートに向かって歩いていた。
時間はもうすでに深夜であるし、なによりもここは日本ではない。
物騒なことこの上ないのだが、セナは繁華街でのアルバイトをやめなかった。
とにかく夢を実現するため、少々の危険は仕方がない。

大学を卒業した後、セナはNFLのチームからオファーを受けて渡米した。
だが本格的なアメフトシーズンが来る前に、チームから解雇されたのだ。
原因は、英語力だった。

日本人がNFLに挑戦する場合、まず体格や体力の違いが問題だと思われがちだ。
だが実際には、まず問題になるのは英語力なのだ。
アメフトは戦術は細かく入り組んでいるし、状況に応じてその場での作戦変更も多い。
日常会話はなんとかできますという程度の英語力では、とてもついていけない。

落ち込んでいる暇などない。
今度こそ夢の舞台に立つためなら、何だってする。

セナは、繁華街の酒場でアルバイトを始めた。
酒場にはいろいろな人種が集まるし、スラングなども含めた生の英語が飛び交う。
しかも可愛らしい顔立ちのセナは、よく客にも話しかけられる。
英語力を上げながら、滞在費を稼ぐにはいいアルバイトだった。

ふと背後に人の気配を感じたセナは、立ち止まって振り返った。
アルバイト先の酒場もなかなか物騒な雰囲気だが、この帰り道はさらに怖い。
街灯もほとんどなく、細い路地や物陰など身を潜める場所は多いからだ。
日本と違って、男でも性的な欲望の対象になることは日常茶飯事であるからなおさら怖い。

だがしばらく立ち止まったが、人の気配はない。
セナはホッと胸を撫で下ろすと、早足でアパートへと急いだ。
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