トロフィー
まったく煩せぇこと、この上ない。
ヤツラは今、糞チビが関東大会の表彰式でぶっ壊したMVPトロフィーを組み立てている。
ここはこれかなぁ?とか、いやこうじゃない?とか。
落っことしたトロフィーはかなり悲惨な状態になっていた。
台座や天辺の部分こそ大きな塊で残っているが、それ以外はかなり細かい破片と化している。
最初は確か糞チビと糞ザルが部室の隅で細々と組み立て始めたのだが。
コーチという名で集まっている他校のヤツラが面白がって手を出して、大パズル大会となってしまった。
陸がセナは昔から不器用だったよなぁと言い、糞チビが情けなく笑う。
一休がこれは鬼むずかしいと言い、赤羽はこんな時でもギターを放さない。
筧と水町が欠片が小さすぎて俺たちの手のサイズに合わないと文句を言う。
キッドが鉄馬にその破片は右だと指示し、雲水が破片を片手に唸る。
大田原が鼻息で仮留めしていた細かい破片を崩しかけ、番場と峨王に押さえつけられて。
あの真面目な進までもがその欠片はこっちではないのか、などと聞いている。
俺は初めて右腕が使えないことに感謝した。
このメンバーには俺など恐れない命知らずも多いが、さすがに今の俺に手伝えとは誰も言わない。
正直言って、俺はこのトロフィーをあまり見たくない。
見ればどうしても、あの時の糞チビを思い出してしまうからだ。
痛めて、震えが止まらなくなったあの細い腕を。
このままコイツが壊されるくらいならクリスマスボウルなんて、とすら考えた。
しかしその考えを捨てさせたのも他ならぬコイツだ。
俺は見た。コイツが痺れた手を必死で動かそうとしていたのを。
コイツが諦めていないということが、伝わってきた。
糞ガキ共は。当のこのチビですら、俺の右腕の心配ばかりしている。
だが今までに俺がこの小さな身体に強制した数知れない無理こそ心配するべきだと思う。
トロフィーがどうやら完成したようだ。
じゃあこれで接着剤で、と誰かが言い、ようやく終りに差し掛かったパズル大会。
すみません。何かこれ、余っちゃったみたいです。。。
比較的大きな破片を示しながら情けない声を出したのは、トロフィーの持ち主である糞チビだ。
ええ?とか、何やってんだセナ!とか。不満と抗議の声が上がる。
なくても大丈夫じゃないかな、と弱々しく言い訳する糞チビに全員がダメだと怒る。
最初からやり直しらしい。
よし、頑張るぜ!というモン太の掛け声に皆がオ~!と答える。何だ、この結束は。
でも考えてみると。案外デビルバッツの繋がりもこんな感じかも知れない。
この頼りなさ気なチビを中心にして、世界が回っている。
ヒル魔さん、出来ました~♪という間抜けな声。俺はそちらに視線を向ける。
出来上がったトロフィーは、一般的に想像するそれとはかなり違っていた。
そもそも真っ直ぐに立っておらず、大きく傾いている。
しかも余ったパーツを無理矢理貼ったらしく、変なところで枝分かれしている。
その他の余った細かい破片はもう適当に貼り付けたようだ。
それによく見ると、俺が撃った後の空の銃弾とか誰かの取れたボタンとか。
そもそも元のトロフィーの破片でないものまでくっついている。
どうやら途中からパズルを諦めて、アートに変わっちまったらしい。
結果出来上がったのは、妙にコミカルな物体だった。
俺は眉根を寄せて、顔を強張らせた。よく笑い出さずに堪えたと思う。
そのまま怒っている風を装って「テメーらさっさと練習に行きやがれ!」と怒鳴り散らした。
俺は全員を追い出した部室に戻り、鍵をかけ、完全な密室にして。
そして今度こそ堪えきれずに笑いだした。
完璧なトロフィーはあの時を思い出して、辛いかもしれないが。
この不恰好でコミカルで何だか愛嬌のあるトロフィーは悪くないかもしれない。
一生懸命で、時に無茶苦茶で、でもどこか皆を惹き付けるアイツに似合っている。
クリスマスボウル出場で終りではない。そこで勝つことがゴールだ。
俺は世界に1つしかないトロフィーを見ながら、決意を新たにする。
【終】
ヤツラは今、糞チビが関東大会の表彰式でぶっ壊したMVPトロフィーを組み立てている。
ここはこれかなぁ?とか、いやこうじゃない?とか。
落っことしたトロフィーはかなり悲惨な状態になっていた。
台座や天辺の部分こそ大きな塊で残っているが、それ以外はかなり細かい破片と化している。
最初は確か糞チビと糞ザルが部室の隅で細々と組み立て始めたのだが。
コーチという名で集まっている他校のヤツラが面白がって手を出して、大パズル大会となってしまった。
陸がセナは昔から不器用だったよなぁと言い、糞チビが情けなく笑う。
一休がこれは鬼むずかしいと言い、赤羽はこんな時でもギターを放さない。
筧と水町が欠片が小さすぎて俺たちの手のサイズに合わないと文句を言う。
キッドが鉄馬にその破片は右だと指示し、雲水が破片を片手に唸る。
大田原が鼻息で仮留めしていた細かい破片を崩しかけ、番場と峨王に押さえつけられて。
あの真面目な進までもがその欠片はこっちではないのか、などと聞いている。
俺は初めて右腕が使えないことに感謝した。
このメンバーには俺など恐れない命知らずも多いが、さすがに今の俺に手伝えとは誰も言わない。
正直言って、俺はこのトロフィーをあまり見たくない。
見ればどうしても、あの時の糞チビを思い出してしまうからだ。
痛めて、震えが止まらなくなったあの細い腕を。
このままコイツが壊されるくらいならクリスマスボウルなんて、とすら考えた。
しかしその考えを捨てさせたのも他ならぬコイツだ。
俺は見た。コイツが痺れた手を必死で動かそうとしていたのを。
コイツが諦めていないということが、伝わってきた。
糞ガキ共は。当のこのチビですら、俺の右腕の心配ばかりしている。
だが今までに俺がこの小さな身体に強制した数知れない無理こそ心配するべきだと思う。
トロフィーがどうやら完成したようだ。
じゃあこれで接着剤で、と誰かが言い、ようやく終りに差し掛かったパズル大会。
すみません。何かこれ、余っちゃったみたいです。。。
比較的大きな破片を示しながら情けない声を出したのは、トロフィーの持ち主である糞チビだ。
ええ?とか、何やってんだセナ!とか。不満と抗議の声が上がる。
なくても大丈夫じゃないかな、と弱々しく言い訳する糞チビに全員がダメだと怒る。
最初からやり直しらしい。
よし、頑張るぜ!というモン太の掛け声に皆がオ~!と答える。何だ、この結束は。
でも考えてみると。案外デビルバッツの繋がりもこんな感じかも知れない。
この頼りなさ気なチビを中心にして、世界が回っている。
ヒル魔さん、出来ました~♪という間抜けな声。俺はそちらに視線を向ける。
出来上がったトロフィーは、一般的に想像するそれとはかなり違っていた。
そもそも真っ直ぐに立っておらず、大きく傾いている。
しかも余ったパーツを無理矢理貼ったらしく、変なところで枝分かれしている。
その他の余った細かい破片はもう適当に貼り付けたようだ。
それによく見ると、俺が撃った後の空の銃弾とか誰かの取れたボタンとか。
そもそも元のトロフィーの破片でないものまでくっついている。
どうやら途中からパズルを諦めて、アートに変わっちまったらしい。
結果出来上がったのは、妙にコミカルな物体だった。
俺は眉根を寄せて、顔を強張らせた。よく笑い出さずに堪えたと思う。
そのまま怒っている風を装って「テメーらさっさと練習に行きやがれ!」と怒鳴り散らした。
俺は全員を追い出した部室に戻り、鍵をかけ、完全な密室にして。
そして今度こそ堪えきれずに笑いだした。
完璧なトロフィーはあの時を思い出して、辛いかもしれないが。
この不恰好でコミカルで何だか愛嬌のあるトロフィーは悪くないかもしれない。
一生懸命で、時に無茶苦茶で、でもどこか皆を惹き付けるアイツに似合っている。
クリスマスボウル出場で終りではない。そこで勝つことがゴールだ。
俺は世界に1つしかないトロフィーを見ながら、決意を新たにする。
【終】
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