ああ、せっかくの海なのに。
僕は恨めしい気持ちで、綺麗な海とそこで遊ぶ部員たちを見ている。

僕たち泥門デビルバッツは、夏の合宿で海辺のとあるホテルに滞在している。
トレーニング設備がそこそこあり、練習するためのグラウンドがあり、綺麗な海がある。
そして夏休みなのに、観光客などがほとんどいない。
今の日本では考えられない理想的な環境。
それはひとえに僕の前の主将の黒い手帳の力で確保できた場所だ。

練習メニューは溝六先生と協力して、きっちりと組んだ。
去年のデスマーチと比べて、内容は引けを取っていないと思う。
それでも昨年ほどの悲壮感がないのは、ひとえにこの綺麗な海のおかげだと思う。
練習でクタクタになった部員たちは、それでも練習の合間や終わりに、海に繰り出している。
クールダウン。リフレッシュ。
何でもいい。きつい練習を少しでも楽しく乗り切れるなら。
ああ。それなのに。