First Contact

長かったクリスマスボウルへの挑戦は終わった。
余韻に浸るまもなく、慌しく年が変わる。
泥門デビルバッツの年末最後の大仕事。部室の大掃除をしていた。
それぞれの分担場所に散った部員たちは思い出深き部室を掃除する。
セナは栗田と共に、部室の窓を拭いていた。

4月にセナくんと出会って、もう9ヶ月。あれから始まったんだよね。
栗田が丸っこい手の指を折り、数えながら言った。
するとセナは悪戯っぽく笑った。実は4月じゃないんですよ。
ポケットから生徒手帳を取り出す。
そしてその中に挟まれていたらしい小さな紙片を栗田に見せた。


爆吉。楕円形の革製品に運気あり。
争い・格子模様の競技場にて行へ。
健康・防具着用の球技で運動を。
方角・校舎南西の小屋に慶びあり。

それは奇妙なおみくじ。だが栗田の表情が一瞬驚き、そして綻んだ。
今年の正月、部員勧誘のためにヒル魔と二人で神社の一角を占拠した。
そして泥門受験生に的を絞っておみくじ攻撃を仕掛けたのだ。
ヒル魔さんも栗田さんもビジュアル的にインパクトあったから。
しっかり記憶に残っちゃいましたよ。とセナが笑う。

あの時ヒル魔と栗田は誰でもおかまいなしに勧誘していたわけではなかった。
何せアメフト選手なのだから。体格などもチェックしていた。
それなのにこんな小柄な少年にも渡してたことに栗田は密かに驚く。
やっぱり運命なんだろうか。この少年が仲間に加わったことは。
このおみくじは僕の原点なんです。セナはそう言って笑った。


窓拭きが終わって。外の掃除を手伝ってきます、とセナは部室を出て行く。
入れ替わるようにヒル魔が部室に入ってきた。栗田の心にふと悪戯心が湧く。
ねぇヒル魔。初めてセナくんを見たときのこと覚えてる?
ああ?正月の甲森神社か?ヒル魔がつまらなそうな声で言う。
覚えてたんだ、ヒル魔。栗田は驚いてヒル魔を凝視した。
たりめーだ。ヒル魔はいつもの人を喰ったような笑いを浮かべている。

やはり運命なんだな、と栗田は思う。
ヒル魔とセナは出会うべくして出会ったのだと。
セナにおみくじを渡さなくても、きっとヒル魔はセナに惹かれただろう。

そして来年は世界大会。
セナもヒル魔も栗田も。新たなステージの扉を開ける。

【終】
1/1ページ