Guardian
甲斐谷陸は峨王の右の掌が振り下ろされるその瞬間にそれを見た。
氷室を庇ってセナが飛び出す。
それを目の端に捉えながら、彼女のノートパソコンを引き寄せた。
この会見は陸にとってまったく気に入らないものだった。
高校生とは思えない無駄に色っぽい白秋のマネージャーは試合を棄権しろと言う。
それも西部が負けることを前提に、決勝相手の泥門のエースのセナまで呼んでいた。
その後現れた猛獣のような男も、場違いなマフィアみたいな男も。
セナが襟元にマイク付きのカメラを付けていたことも。
そして2階のカフェの窓にヘッドフォンをつけたヒル魔妖一が見えたことも。
あいつはセナを通じてこの様子を見て、聞いているのだ。狡猾な男。
「決勝で待ってろよ、セナ」
うん、と答えるセナの声を背後に聞きながら、陸はその場を立ち去った。
ヒル魔妖一。
悪魔のQB。地獄の司令塔。そんな評価を疑うことはなかった。
神龍寺戦で膝の痛みを抱えながら、歯を食いしばって走るセナを見た。
そのセナをついに交代させず、勝ちより大事なものはないと言い放った。
勝つためには手段を選ばない非情な男なのだと思った。
でも先程の峨王の襲撃。
もちろんセナを、ついでに氷室を守るつもりだった。
でも陸は見た。峨王の右手が振り下ろされる瞬間。
ヒル魔は2階から銃口を峨王に向けていた。
だからノートパソコンを引き寄せたのだ。
信頼して無茶なことをさせてるくせに、心配して守ろうとしてるということか。
意外に大事にされてるんだな。セナ。
不本意な会見だけど、不思議と後味は悪くない。
陸は軽い足取りで歩いていく。
****
セナは陸と別れた後、ヒル魔が待つ2階のカフェに向かった。
「もう怖かったですよぉ」
マイク付きのカメラをヒル魔に渡しながら、半分裏返った声で訴える。
ヒル魔はケケケと笑いながら、それを受け取った。
「帰るぞ。」
セナは「はい」と答え、先に立って歩きだした。
そのセナの後姿を見ながらヒル魔は思う。
セナが逃げられずに、峨王にやられるようなことになれば。
躊躇うことなく引き金を引いていた。
甲斐谷陸は多分、それに気づいただろう。
それを思うと何だか面白くない。
「どうしました?ヒル魔さん」
「何でもねぇ。」
テメーが無事でよかった。なんて言ってやらねぇぞ。
ヒル魔が長いストライドでセナを追い越していった。
待ってください~とセナの声が追いかけてくる。
【終】
氷室を庇ってセナが飛び出す。
それを目の端に捉えながら、彼女のノートパソコンを引き寄せた。
この会見は陸にとってまったく気に入らないものだった。
高校生とは思えない無駄に色っぽい白秋のマネージャーは試合を棄権しろと言う。
それも西部が負けることを前提に、決勝相手の泥門のエースのセナまで呼んでいた。
その後現れた猛獣のような男も、場違いなマフィアみたいな男も。
セナが襟元にマイク付きのカメラを付けていたことも。
そして2階のカフェの窓にヘッドフォンをつけたヒル魔妖一が見えたことも。
あいつはセナを通じてこの様子を見て、聞いているのだ。狡猾な男。
「決勝で待ってろよ、セナ」
うん、と答えるセナの声を背後に聞きながら、陸はその場を立ち去った。
ヒル魔妖一。
悪魔のQB。地獄の司令塔。そんな評価を疑うことはなかった。
神龍寺戦で膝の痛みを抱えながら、歯を食いしばって走るセナを見た。
そのセナをついに交代させず、勝ちより大事なものはないと言い放った。
勝つためには手段を選ばない非情な男なのだと思った。
でも先程の峨王の襲撃。
もちろんセナを、ついでに氷室を守るつもりだった。
でも陸は見た。峨王の右手が振り下ろされる瞬間。
ヒル魔は2階から銃口を峨王に向けていた。
だからノートパソコンを引き寄せたのだ。
信頼して無茶なことをさせてるくせに、心配して守ろうとしてるということか。
意外に大事にされてるんだな。セナ。
不本意な会見だけど、不思議と後味は悪くない。
陸は軽い足取りで歩いていく。
****
セナは陸と別れた後、ヒル魔が待つ2階のカフェに向かった。
「もう怖かったですよぉ」
マイク付きのカメラをヒル魔に渡しながら、半分裏返った声で訴える。
ヒル魔はケケケと笑いながら、それを受け取った。
「帰るぞ。」
セナは「はい」と答え、先に立って歩きだした。
そのセナの後姿を見ながらヒル魔は思う。
セナが逃げられずに、峨王にやられるようなことになれば。
躊躇うことなく引き金を引いていた。
甲斐谷陸は多分、それに気づいただろう。
それを思うと何だか面白くない。
「どうしました?ヒル魔さん」
「何でもねぇ。」
テメーが無事でよかった。なんて言ってやらねぇぞ。
ヒル魔が長いストライドでセナを追い越していった。
待ってください~とセナの声が追いかけてくる。
【終】
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