オニキス
ありがとう、桜庭さん。。。
僕は心の中で何回も感謝しながら、軽やかな足取りで走った。
ポケットにはキミドリスポーツで受け取ったばかりの1万円札が2枚。
東京都大会のベストイレブンの賞品のスパイクを売ったのだ。
どうしても買いたいものがあった。僕にしてはかなり高価なもの。
でも貯金もないし、関東大会に備えての練習があるからバイトする時間もない。
藁にも縋る思いでキミドリスポーツにスパイクを持ち込んだ。
このスパイクは『モデル・SAKURABA』それは貰う時に僕も聞いた。
桜庭さんが芸能活動を止めてしまったために現在は製造していないらしい。
しかも東京大会の賞品ということで限定デザイン。当然未使用。
顔なじみの店主のおじさんは興奮気味に早口でまくしたて、目を輝かせて喜んだ。
桜庭さんの綺麗な顔が頭に浮かぶ。ありがたいような申し訳ないような。
何だか複雑な気分だったけど、とにかく臨時収入を手にした。
そして僕はそのまま駅前のアクセサリーショップに駆け込んだ。
次の日、練習後の部室で。僕は皆が帰るのを待っていた。
鍵を閉めるためにいつも最後まで残るヒル魔さんにあれを渡すためだ。
わざとゆっくりと着替えながらノートパソコンを叩くヒル魔さんを盗み見る。
いつもヒル魔さんの尖った耳を飾っている二連の美しい金色のピアス。
だが左の耳には今はピアスが1つしかない。失くしてしまったという。
そこで僕はアクセサリーショップへ向かったのだった。
そしてショーケースに並べられた黒いリングのピアスに釘付けになった。
オニキスというらしい。
昔から護符として用いられているパワーストーンなんですよ。
店員さんが僕の視線を読んで、そう教えてくれた。
恋人同士でぜひ、という感じで2組並べられたピアス。
まるで二連のピアスをしているヒル魔さんのためのようにさえ見えて。
黒く美しいオニキスの光に魅せられた僕は、ついにこれを手に入れたのだ。
おずおずと差し出した箱を開けたヒル魔さん。
一瞬驚いたように目を見開き、そして嬉しそうに笑ってくれた。
無理したんじゃねえのか?と言いながら、3つの金のピアスを外しはじめる。
桜庭さんに悪いことしました。と僕が言うと、ヒル魔さんにはわかったようだ。
せっかくのベストイレブンの賞品、売っちまったのか?とちょっと淋しそうに言う。
ベストイレブンなんてヒル魔さんがいなかったら貰えてませんから、と僕は笑った。
するとヒル魔さんの長い指が僕の左手首を掴んだ。
そして外したばかりの金のピアスの1つを薬指にはめてくれる。
代わりにやるよ、ベストイレブンの賞品だ。
金のピアスはずっしりと重い。その感覚に僕は急に焦る。
ヒル魔さんのピアスってすごく高価なものなのではないだろうか。
僕があげたようなオニキスなんかよりずっとずっと。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ヒル魔さんは僕に囁いた。
新しいピアス、テメーがつけてくれよ。
僕は慣れない手つきでヒル魔さんにオニキスのピアスをつけていく。
指が少し震えているのは、僕の左手薬指で光る金の輪が重いからだと心の中で言い訳しながら。
【終】
僕は心の中で何回も感謝しながら、軽やかな足取りで走った。
ポケットにはキミドリスポーツで受け取ったばかりの1万円札が2枚。
東京都大会のベストイレブンの賞品のスパイクを売ったのだ。
どうしても買いたいものがあった。僕にしてはかなり高価なもの。
でも貯金もないし、関東大会に備えての練習があるからバイトする時間もない。
藁にも縋る思いでキミドリスポーツにスパイクを持ち込んだ。
このスパイクは『モデル・SAKURABA』それは貰う時に僕も聞いた。
桜庭さんが芸能活動を止めてしまったために現在は製造していないらしい。
しかも東京大会の賞品ということで限定デザイン。当然未使用。
顔なじみの店主のおじさんは興奮気味に早口でまくしたて、目を輝かせて喜んだ。
桜庭さんの綺麗な顔が頭に浮かぶ。ありがたいような申し訳ないような。
何だか複雑な気分だったけど、とにかく臨時収入を手にした。
そして僕はそのまま駅前のアクセサリーショップに駆け込んだ。
次の日、練習後の部室で。僕は皆が帰るのを待っていた。
鍵を閉めるためにいつも最後まで残るヒル魔さんにあれを渡すためだ。
わざとゆっくりと着替えながらノートパソコンを叩くヒル魔さんを盗み見る。
いつもヒル魔さんの尖った耳を飾っている二連の美しい金色のピアス。
だが左の耳には今はピアスが1つしかない。失くしてしまったという。
そこで僕はアクセサリーショップへ向かったのだった。
そしてショーケースに並べられた黒いリングのピアスに釘付けになった。
オニキスというらしい。
昔から護符として用いられているパワーストーンなんですよ。
店員さんが僕の視線を読んで、そう教えてくれた。
恋人同士でぜひ、という感じで2組並べられたピアス。
まるで二連のピアスをしているヒル魔さんのためのようにさえ見えて。
黒く美しいオニキスの光に魅せられた僕は、ついにこれを手に入れたのだ。
おずおずと差し出した箱を開けたヒル魔さん。
一瞬驚いたように目を見開き、そして嬉しそうに笑ってくれた。
無理したんじゃねえのか?と言いながら、3つの金のピアスを外しはじめる。
桜庭さんに悪いことしました。と僕が言うと、ヒル魔さんにはわかったようだ。
せっかくのベストイレブンの賞品、売っちまったのか?とちょっと淋しそうに言う。
ベストイレブンなんてヒル魔さんがいなかったら貰えてませんから、と僕は笑った。
するとヒル魔さんの長い指が僕の左手首を掴んだ。
そして外したばかりの金のピアスの1つを薬指にはめてくれる。
代わりにやるよ、ベストイレブンの賞品だ。
金のピアスはずっしりと重い。その感覚に僕は急に焦る。
ヒル魔さんのピアスってすごく高価なものなのではないだろうか。
僕があげたようなオニキスなんかよりずっとずっと。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ヒル魔さんは僕に囁いた。
新しいピアス、テメーがつけてくれよ。
僕は慣れない手つきでヒル魔さんにオニキスのピアスをつけていく。
指が少し震えているのは、僕の左手薬指で光る金の輪が重いからだと心の中で言い訳しながら。
【終】
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