平成から令和へ

あ~あ、面白くない。
セナはノートパソコンを叩き続けるヒル魔を眺めている。
年号が変わろうと、その姿はまったく変わらないのだろう。

もうすぐ元号が変わる。
だから街はなんとなくお祭りムードだ。
デパートやスーパーなどでは「改元セール」なるものをやっている。
また元号が入った限定商品も店頭やネットでよく見かけるようになった。

十文字から誘いも来た。
かつての泥門メンバーで集まって、元号のカウントダウンをしないかと。
久しぶりにみんなで会うのは悪くない。
だけどセナはことわった。
元号が変わる瞬間なんて、もう一生ないかもしれない。
そんな特別なときに一緒にいたい人は1人しかいない。

だがヒル魔ときたら!
もうずっと部屋にこもりっきりなのだ。
相変わらず長い足を組み、その膝にパソコンを乗せて器用に叩いている。
曰く「元号が変わるなんて稼ぎ時じゃねぇか」とのこと。
セナにとっては、いったい何で稼ぐのかさっぱりわからないのだか。

「机の上にパソコン置いた方が楽じゃないのかな。」
「昔からのクセでな。この方が早く打てるんだ。」
「え?あ!」
心の中で思っただけのつもりが、どうやら声に出していたらしい。
驚き、慌てるセナとは対照的にヒル魔は冷静だ。
パソコンから目を離すこともなく、軽快にキーを打ちながら喋っている。

「元号が変わるんですよ。」
「んなことはわかってる。」
「そうですよね。」
「何だ。その棘のある言い方。」
「そんなこと、ないですよ!」

元号が変わる瞬間、ちょっとだけ特別なことをしたい。
だけど黙々とパソコンを叩いているヒル魔を見ていると、そんなことは言えなかった。
ヒル魔にはきっともっと重要な関心事があるのだろう。
恋人にしてもらって、こうして彼のテリトリーに入れてもらえている。
それだけで充分幸せだ。

「夕飯は何がいいですか?ちょっと買い出しに行ってきます。」
気を取り直してセナが立ち上がろうとしたとき、ドアチャイムが鳴った。
ヒル魔は相変わらずパソコンを叩きながら「ちょっと出てくれ」と言う。
特に不審にも思わずモニターを覗き込んだセナは「え?」と声をあげた。
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