スーパーボウル前哨戦

** このお話は2015年スーパーボウル前の実際のニュースを引用しております。**


「このニュース、見ました?」
セナは困惑したように、パソコンの画面を指さした。
ヒル魔は「ああ、見た」と答えて、眉をひそめた。

数日前、NFLのカンファレンス・チャンピオンシップが行なわれた。
AFCはニューイングランド・ペイトリオッツ、NFCはシアトル・シーホークスの優勝だ。
この2チームが、スーパーボウルで戦うことになる。

だがスーパーボウル目前の今日、衝撃のニュース報道が出た。
AFCのチャンピオンシップで不正が行われたというのだ。
勝者のペイトリオッツは、何と違反ボールを使用していたという。
チームが用意した12個のボールのうち11個が、空気圧が規定より少ないというのだ。
空気圧の低いボールは投げる際に握りやすく、捕球もしやすい。
つまりパス攻撃の場合、かなり有利になる。

セナとヒル魔もこの試合をリアルタイムで見ていた。
現地時間の日曜夜は、日本時間では月曜日の早朝になる。
2人で早起きして、眠い目をこすりながら、試合を見た。
問題のAFCの試合はペイトリオッツの圧倒的勝利、一方的なゲーム展開だった。

「あの試合は雨でしたね」
セナは確認するように、そう言った。
空気圧の低いボールの効果は、低い気温、そして雨の日により効果が高まると言われている。
ペイトリオッツだけがそういうボールを使ったなら、かなり有利だっただろう。
つまり本当ならまぎれもなく不正だ。

「調査中ってありますけど、もし有罪ってことになったらどうなるんでしょう。再試合とか?」
「多分、日程的に無理だろう」
「じゃあ、お咎めなしですか!?」

正義感の強いセナは、珍しく怒っている。
ヒル魔はそんなセナの表情を、かわいいと思った。
大きな目を吊り上げている様子はレアで、一見の価値ありだ。
だがそんな素振りは見せずに、冷静に答える。

「ヘッドコーチの出場停止、罰金、ドラフト指名権なし。まぁそんなとこだな。」
「甘くないですか。せっかくの大舞台が台無しなのに。」
「そりゃ正論だ。だが今さら中止や日程変更なんて無理だろう。ましてや再試合もな。」
「そっか。そうですよね。スーパーボウルまであと1週間しかないし。」
「どんな結論になるか、俺らは見てるしかねーよ。」
「何か本当っぽい気がします。あのヘッドコーチは何でもやりそうですから。」

セナの言葉に、ヒル魔はニンマリと笑った。
高校1年の初試合で、相手チームのエンドゾーンへまさかの逆走を演じたセナ。
それが今、ヒル魔と対等にNFLの話をするほど成長している。
その成長が嬉しかったからだ。
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