シクラメン

誕生日が12月21日って、すごく微妙だ。
セナは毎年、誕生日が来るたびにそう思っている。

子供の頃から、いつも誕生日とクリスマスを括られてきた。
家ではパーティもプレゼントも、1つにまどめられた。
そして高校に入った年は、言い出すことも憚られるような雰囲気だった。
何しろ高校アメフトの最大イベント、クリスマスボウルの直前だ。
みんなのテンションが高まっているときに誕生日なんて言ってられない。

その縛りは、今年も継続中だ。
今年もまた、クリスマスボウルへの出場権を獲得した。
だが王者として迎える今回、プレッシャーはすごく重い。
それにヒル魔から主将を引き継いでおり、責任も感じている。
誕生日だなんて浮かれている場合じゃないのだ。

そして12月21日も、いつも通りの練習だ。
セナは帰宅途中に、ふと花屋の前で足を止めた。
花屋の店先に並ぶのは、きれいなシクラメンの鉢植えだ。
ハードな練習に身体は疲労し、今年も連覇だと心は緊張状態にある。
そんなセナの心を、束の間癒してくれた。

これ、ヒル魔さんの家に置きたいなぁ。
セナは心の中で、そっと呟いた。
ちょうど昨年のクリスマスボウルの後から付き合い始めて、時々遊びに行くヒル魔の部屋を想像する。
立地のいい高級マンションの高層階の一室。
広いし、綺麗だし、ベットやらテーブルやら置かれている家具も立派なものだ。
だが生活必需品以外のもの、いわゆる装飾品などが一切ない無機質な部屋だったのだ。
セナは秘かに、引退したらあの部屋をもっと温かみのある空間にしたいと思っていた。

だけど今はクリスマスボウルだ。
そもそもヒル魔はきっと花など好きじゃないだろう。
以前、白秋のマルコが花を贈って来た時には「甘くせぇ」とか言って、顔をしかめていた。
鉢植えなんか持ち込んだら、銃撃でもされそうな気がする。
そういう意識改革も含めて、とにかくクリスマスボウルの後に考えること。

セナはゆっくりと花屋の前を通り過ぎた。
家に辿り着くころには、もうシクラメンのことはすっかり忘れていた。
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